相続税
物 納
物納すべきかどうかの判断
相続税法では、延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合には、納税者の申請により、その納付を困難とする金額を限度として一定の相続財産(相続時精算課税または非上場株式の納税猶予を適用している場合には、それらの適用対象となっている財産を物納の対象とすることはできません)による納付ができます。 これを物納といいます。 しかしながら近年、条件の厳しさ、手続きの複雑さ等から物納の利用者は大幅に減少しており、物納が認められた件数は平成10年ころには5,000件ぐらいでしたが、令和3年には40件ぐらいまで減少しています。 したがいまして、その内容を検討するとともに、納付のための固定資産の譲渡と比較してどちらが有利か検討することをお勧めいたします。
1 物納の要件
下記のすべての要件を満たすことが必要です。
(要件1) 延納によっても金銭で納付することが困難であり、かつ、その納付が困難な金額を限度としていること。
(要件2) 物納申請財産は、納付すべき相続税額の課税価格計算の基礎となった相続財産のうち、日本国内に所在する下記に掲げる財産および順位(①から⑤の順)となること。
項 目 | 内 容 |
第1順位 | ① 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等(特別の法律により法人の発行する債券および出資証券を含みますが、短期社債等は除かれます。) ➁ 不動産および上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの |
第2順位 | ➂ 非上場株式等(特別の法律により法人の発行する債券および出資証券を含みますが、短期社債等は除かれます。) ➃ 非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの |
第3順位 | ⑤ 動産 |
注意事項 | 注1 後順位の財産は、税務署長が特別の事情があると認める場合および先順位の財産に適当な価額のものがない場合に限って物納に充てることができます。 注2 特定登録美術品(美術品の美術館における公開の促進に関する法律第2条第3号に規定する登録美術品で相続開始の時において既に登録を受けているものをいいます。)については、上記の順序にかかわらず一定の書類を提出することにより物納に充てることができます。 |
(要件3) 物納に充てることができる財産は、管理処分不適格財産に該当しないものであることおよび物納劣後財産に該当する場合には、他に物納に充てるべき適当な財産がないこと。
(要件4) 物納申請期限(物納しようとする相続税の納期限または納付すべき日)までに、物納申請書に必要書類を添付して税務署長に提出すること。
2 管理処分不適格財産(物納に不適格な財産)
下記に掲げるような財産は、物納に不適格な財産(管理処分不適格財産)となります。
(1) 不動産
番 号 | 不動産の内容 |
1 | 担保権の設定の登記がされていることその他これに準ずる事情がある不動産 |
2 | 権利の帰属について争いがある不動産 |
3 | 境界が明らかでない土地 |
4 | 隣接する不動産の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の使用ができないと見込まれる不動産 |
5 | 他の土地に囲まれて公道に通じない土地で民法第210条(公道に至るための他の土地の通行権)の規定による通行権の内容が明確でないもの |
6 | 借地権の目的となっている土地で、その借地権を有する者が不明であることその他これに類する事情があるもの |
7 | 他の不動産(他の不動産の上に存する権利を含みます。)と社会通念上一体として利用されている不動産もしくは利用されるべき不動産または二以上の者の共有に属する不動産 |
8 | 耐用年数(所得税法の規定に基づいて定められている耐用年数をいいます。)を経過している建物(通常の使用ができるものを除きます。) |
9 | 敷金の返還に係る債務その他の債務を国が負担することとなる不動産(申請者において清算することを確認できる場合を除きます。) |
10 | その管理または処分を行うために要する費用の額がその収納価額と比較して過大となると見込まれる不動産 |
11 | 公の秩序または善良の風俗を害するおそれのある目的に使用されている不動産その他社会通念上適切でないと認められる目的に使用されている不動産 |
12 | 引渡しに際して通常必要とされる行為がされていない不動産 |
13 | 地上権、永小作権、賃借権その他の使用および収益を目的とする権利が設定されている不動産で次に掲げる者がその権利を有しているもの ①暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第6号に規定する暴力団員または暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者(以下「暴力団員等」といいます。) ➁暴力団員等によりその事業活動を支配されている者 ➂法人で暴力団員等を役員等(取締役、執行役、会計参与、監査役、理事および監事ならびにこれら以外の者でその法人の経営に従事している者ならびに支配人をいいます。)とするもの |
(2) 株式
番 号 | 株式の内容 |
1 | 譲渡に関して金融商品取引法その他の法令の規定により一定の手続が定められている株式で、その手続がとられていない株式 |
2 | 譲渡制限株式 |
3 | 質権その他の担保権の目的となっている株式 |
4 | 権利の帰属について争いがある株式 |
5 | 共有に属する株式(共有者全員がその株式について物納の許可を申請する場合を除きます。) |
6 | 暴力団員等によりその事業活動を支配されている株式会社または暴力団員等を役員(取締役、会計参与、監査役および執行役をいいます。)とする株式会社が発行した株式(取引相場のない株式に限ります。) |
(3) 上記以外の財産
その財産の性質が上記(1)または(2)に定める財産に準ずるものとして税務署長が認めるもの
3 物納劣後財産
下記のような財産(物納劣後財産)は、他に物納に充てるべき適当な財産がない場合に限り、物納することができます。
番 号 | 内 容 |
1 | 地上権、永小作権もしくは耕作を目的とする賃借権、地役権または入会権が設定されている土地 |
2 | 法令の規定に違反して建築された建物およびその敷地 |
3 | 土地区画整理法による土地区画整理事業等の施行に係る土地につき仮換地または一時利用地の指定がされていない土地(その指定後において使用または収益をすることができない土地を含みます。) |
4 | 現に納税義務者の居住の用または事業の用に供されている建物およびその敷地(納税義務者がその建物および敷地について物納の許可を申請する場合を除きます。) |
5 | 配偶者居住権の目的となっている建物およびその敷地 |
6 | 劇場、工場、浴場その他の維持または管理に特殊技能を要する建物およびこれらの敷地 |
7 | 建築基準法第43条第1項(敷地等と道路との関係)に規定する道路に2メートル以上接していない土地 |
8 | 都市計画法の規定による都道府県知事の許可を受けなければならない開発行為をする場合において、その開発行為が開発許可の基準に適合しないときにおけるその開発行為に係る土地 |
9 | 都市計画法に規定する市街化区域以外の区域にある土地(宅地として造成することができるものを除きます。) |
10 | 農業振興地域の整備に関する法律の農業振興地域整備計画において農用地区域として定められた区域内の土地 |
11 | 森林法の規定により保安林として指定された区域内の土地 |
12 | 法令の規定により建物の建築をすることができない土地(建物の建築をすることができる面積が著しく狭くなる土地を含みます。) |
13 | 過去に生じた事件または事故その他の事情により、正常な取引が行われないおそれがある不動産およびこれに隣接する不動産 |
14 | 事業の休止(一時的な休止を除きます。)をしている法人に係る株式に係る株券 |
4 物納申請書の提出期限
物納申請期限(納期限または納付すべき日)までに物納申請書に物納手続関係書類を添付して提出することが必要です。 ただし、物納手続関係書類提出期限延長届出書を提出することにより、最長で1年まで物納手続関係書類の提出期限を延長することができます。
5 物納の許可までの審査期間
物納の許可までの審査は物納申請期限から3か月以内に許可または却下が行なわれます。 また、場合によっては許可または却下が9か月まで延長される場合もあります。
6 物納財産の収納価額
物納財産を国が収納するときの価額は、原則として相続税の課税価格計算の基礎となったその財産の価額になります。 したがって小規模宅地等については、特例適用後の価額となります。
7 その他
⑴ 物納の再申請
処分の内容 | 手続き |
管理処分不適格と判断された場合 | 他の財産による物納の再申請を1回に限り行うことができます |
延納により金銭で納付することを困難とする事由がないことを理由として物納申請の却下があった場合 | 物納が却下された相続税額について延納の申請をすることができます。 |
⑵ 条件付許可
許可財産に条件が付けられた場合、その条件に対する必要な措置をとらなければ、物納許可が取り消されることがありますのでご注意ください。
⑶ 利子税の納付
物納の許可による納付があったものとされた日までの期間のうち、申請者においての必要な措置を行う期間について、利子税がかかります。 また、物納申請が却下された場合や物納申請を取り下げたものとみなされた場合にも、所定の期間に利子税がかかります。 その他、自ら物納申請を取り下げた場合は、納期限または納付すべき日の翌日から延滞税がかかります。
⑷ 特定物納制度(延納から物納への変更)
延納の許可を受けた相続税額について、その後の納税の資金繰りの悪化等の理由によりより当初の延納条件を履行することが困難となった場合には、申告期限から10年以内に限り、残りの税額部分について、延納から物納への変更を行うこと(特定物納)ができます。 特定物納申請をした場合には、物納財産を納付するまでの期間に応じ、当初の延納条件による利子税を納付することとなります。 なお、特定物納に係る財産の収納価額は、特定物納申請の時の価額となります。
8 譲渡との比較
項目 | 物納 | 不動産の譲渡 |
メリット | ①譲渡による所得税及び住民税がいらない ➁不動産の場合固定資産税が少なくなる | ①物納と比較して手続きが簡単 ➁不動産の譲渡代金が相続税の評価額よりも高い場合手取り額が多くなる ➂利子税がかからない |
デメリット | ①条件が厳しい ➁手続きが複雑である ➂相続税評価額が収納価額となり、時価が高くその差額が大きい時、損する可能性がある ➃利子税がかかる | ①譲渡に対する所得税及び住民税が必要 ➁仲介手数料(仲介業者に依頼する時)が必要 ➂譲渡相手を探す期間が短い時、時価よりも安く譲渡する可能性がある |