医業コンサルタント

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開業医の節税対策

1 青色申告控除の適用

青色申告控除

 不動産所得、事業所得又は山林所得を営む個人が青色申告書を提出することを選んだ場合は記帳の仕方で下記の金額を所得から控除することが出来ます。

帳簿の作成方法電子申告の有無控除額
⑴ 複式簿記で帳簿を作成した場合65万円
⑵ 複式簿記で帳簿を作成した場合×55万円
⑶ その他の記帳方法の場合10万円

青色申告書の適用条件

 青色申告者となるためには、必要帳簿を備えて所得が正確に計算出来るよう毎日の取引を記録する必要が有り、次の3種類の方法が有ります

  A 正規の簿記の方法

    一般的には複式簿記がこの条件に該当しています

  B 簡易帳簿の方法

    損益計算書が作成できる程度の単式簿記のことをです

  C 現金式簡易帳簿の方法

    [現金出納帳などに関する事項]と[減価償却に関する事項]のことを記載するだけよい方法です

* 複式簿記は無料または市販の会計ソフトを導入することで比較的簡単に作成することが出来ます

* 現金式簡易帳簿の方法 この特例は前々年の不動産所得と事業所得の合計が300万円(青色事業専従者給与を控除する前)以下で、現金主義の所得計算による旨の届出書を、適用を受けようとする年の3月15日までに税務署に提出した場合に、適用を受けることが出来ます。

必要な備え付け帳簿等

項目正規の簿記簡易簿記現金主義簡易簿記
取引の記録の仕方発生主義発生主義現金主義
備え付け帳簿仕訳帳、総勘定元帳、その他
必要に応じて次の帳簿等
①現金出納帳
➁預金出納帳
➂売掛帳
➃買掛長
⑤固定資産台帳
(標準簡易帳簿)
①現金出納帳
➁売掛帳
➂買掛長
➃経費帳
⑤固定資産台帳
①現金式簡易帳簿
記載事項①現金の出納
➁預金の出納
➂手形
➃売掛金
⑤買掛金
⑥その他債権債務
⑦減価償却資産
⑧その他棚卸資産以外の資産
➈引当金及び準備金
➉売上
⑪売上以外の収入
⑫仕入
⑬仕入以外の費用
⑭元入金
①現金の出納
➁売掛金
➂買掛金
➃減価償却資産
⑤引当金及び準備金
⑥売上
⑦売上以外の収入
⑧仕入
➈仕入以外の費用
①現金の出納
➁現金以外の収入、支出
 及び家事消費も記載
青色申告控除*65万又は55万10万10万
添付書類青色申告決算書(一般用)
*貸借対照表及び損益計算書
青色申告決算書(一般用)
*損益計算書のみ
青色申告決算書(現金主義用)
*損益計算書のみ

手続き方法

提出先届出書類提出期限
所轄税務署所得税の青色申告承認申請書承認を受けようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に開業した場合は開業の日から2か月以内)

2 青色事業専従者給与

制度の概要

所得税の場合、生計を一にする配偶者及びその他の親族に対する経費の支払いは原則的に必要経費に算入出来ませんが、青色申告承認申請書を提出して、承認を受け、かつ、青色事業専従者給与の届出書を提出することで、給与を支払い、必要経費に算入することが出来ます。

配偶者の事業専従者給与   基本的には同規模の医院の専従者給与に相当する金額ですが、配偶者の勤務時間、資格(医師、看護師、薬剤師)などにより金額は相当幅広くなると思われます。

その他の事業専従者給与    基本的に配偶者と同じ

(参考資料)

*一般的に資格がない事務職だけの医業に係る配偶者の専従者給与の額は年間500万円~600万円位が多いと言われていますが、納税者の所得金額、専従者の資格、勤務時間等により金額は増減しますので同規模の他病院の事務長等と比較して決定するべきだと思われます。 ちなみに国税庁「申告所得税標本調査結果」によれば令和2年度で専従者給与の額は単純平均で一人当たり平均222万円となっています。

(青色事業専従者の要件)

⑴生計を一にする親族でその年12月31日現在で年齢15歳以上であること

⑵専ら青色申告者の事業に従事していること

専ら事業に従事するとは、その事業に専ら従事する期間がその年を通じて6月を越えていることをいいます。ただし、次の様な場合には、事業に従事できる期間を通じて1/2を超えればよいことになっています。 

年の途中の開業等その事業が年中を通して行われなかった場合
長期の病気などで専従者がその年中を通して事業に従事できない事情があった場合

*注1 学生(夜間の学生を除く)、他でアルバイトをしている者、自分で事業をしている者等は専ら事業に従事する事が出来ませんので専従者にはなれません。

3 親族の所有する資産に係る経費及び支払費用の必要経費算入

所得税において、生計を一にする配偶者及びその他の親族に対して支払った経費は原則的に必要経費に算入出来ませんが、生計を一にする配偶者及びその他の親族が所有する資産を事業の用に供した場合に、その資産に係る経費又は他に支出した費用があるときには、その経費や費用を事業主の必要経費に算入します。

具体的には

⑴ 、生計を一にする配偶者及びその他の親族の所有する事業用不動産に係る固定資産税、火災保険、減価償却費、修繕費及び維持管理費等

⑵ 生計を一にする配偶者及びその他の親族が負担している事業用資産の賃借料等

4 概算経費率を適用する

社会保険診療報酬について租税特別措置法第26条を適用することにより医業又は歯科医業を営む個人が事業所得の必要経費を計算する際に、実額経費ではなく、概算経費率を利用して経費を申告することが可能な制度です。 従いまして実額経費が概算経費よりも少ない場合はこれを適用することによって節税が可能です。

1 適用要件

② 社会保険診療報酬が5,000万円以下であること

③ 事業所得に係る総収入金額に算入すべき金額の合計額が7,000万円以下であること

2 概算経費速算表

社会保険診療報酬概算経費の速算表
2,500万円以下社会保険診療報酬×72%
2,500万円超〜3,000万円社会保険診療報酬×72%+ 500千円
3,000万円超〜4,000万円社会保険診療報酬×62%+2,900千円
4,000万円超〜5,000万円社会保険診療報酬×57%+4,900千円

5 消費税の簡易課税の選択

概略

消費税の申告をする際に、基準期間の課税売上高が5千万円以下の場合、原則課税と簡易課税の選択が出来ます。 簡易課税の方が得をする場合は簡易課税にすることで節税をすることが出来ます。

ただし、一度選択すると2年間継続適用する必要が有りますので、簡易課税選択年の翌年に建物、高額の医療機器等を購入すると、簡易課税の方が不利になる場合もあるため、慎重に判断する必要が有ります。

簡易課税のみなし仕入れ率

事業の種類事業内容みなし仕入れ率
①第一種事業卸売業  (仕入れた商品を加工しないで他の事業者に販売する事業)90%
➁第二種事業小売業  (仕入れた商品を加工しないで販売する事業で第一種事業以外のもの)80%
➂第三種事業製造業や建築業等で 、卸売業、小売業、役務の提供をおこなう事業を除く事業70%
➃第四種事業➀から➂及び⑤⑥以外の事業60%
⑤第五種事業サ-ビス業  [金融、保険、サ-ビス業(飲食店を除く)等で➀~➂の事業を除く事業]50%
⑥第六種事業不動産業40%
医師の場合は第五種事業に該当し50%を適用しますので実際の課税仕入れの合計がみなし仕入れ率50%適用時の金額を超えるかどうかが目安になります。

手続き方法

簡易課税選択の手続きは当HP消費税を御参照下さい

6 消費税の一般課税で有利な方法の選択

概略

消費税を原則課税で申告する際に、その課税期間における課税売上高が5億円超または課税売上割合が95パーセント未満の場合には、課税仕入れの額は個別対応方式と一括比例配分方式のどちらかで計算する必要が有ります。 一般的には個別対応方式が有利な場合が多いと言われています。(ただし区分のするのにに手間がかかります)

個別対応方式

仕入、必要経費等の課税仕入額を下記の様に区分し計算する方法です

⑴課税売上のみに対応する部分

⑵非課税売上のみに対応する部分

⑶課税売上と非課税売上の両方に対応する部分

仕入控除税額 = ⑴ + (⑶ × 課税売上割合)

一括比例配分方式

仕入控除税額 = 課税仕入れ等に係る消費税額 × 課税売上割合

なお、この一括比例配分方式を選択した場合には、2年間以上継続して適用した後でなければ、個別対応方式に変更することは出来ません。

7 固定資産税を少なくする方法

消費税の経理方法で税抜き処理を選択した場合

消費税の経理方法について税抜き処理を選択した場合に固定資産税(償却資産)が下記で計算した金額分低くなります。

消費税の額 × 1.4/100

1100万円(税込み金額)の医療機器を購入した場合 100万円 × 1.4/100 = 14,000円

金額は毎年少なくなっていきますが償却期間にわたり安い状態が続きます。

一括償却資産制度の選択

20万円未満の資産を取得した場合、その年に取得した10万円以上20万円未満の全ての資産の合計額を3年間で償却し必要経費に算入します。 この場合これらの資産に対して固定資産税(償却資産)は課税されません

8 法人化による節税

医療法人を設立した場合は所得次第で大きく節税になる事が有ります。 

当HPの医業コンサルタント部門の個人と医療法人の違いを御参照下さい

9 所得の課税が先送りになり節税になる可能性が有る場合

概要

経費の総額は同じですが、経費をできる限り前の年に必要経費に算入することで、所得の課税を後年に繰り延べることが出来ることになり、結果的にその年の税金を少なくし資金繰りがしやすくなります(また同時に金利分だけ得することになります)。

但し後年の所得次第で課税される累進税率が変わる場合は合計納税額が大きくなる可能性もあり、損をしますので、このあたりを慎重に見定める必要があります。

⑴ 後年の課税所得が大きくなり、累進税率が高くなる場合 → 節税にならないが初期のキャッシュフロ-を改善する効果がある

⑵ 後年課税所得が小さくなり、累進税率が低くなる場合 → 節税になるし初期のキャッシュフロ-を改善する効果がある

⑶ 後年の課税所得が変動せず、累進税率が同じになる場合 → 節税にならないが、金利分を得し、初期のキャッシュフロ-を改善する効果がある

1 減価償却方法を定率法にする

所得税の減価償却方法は基本的に定額法ですが、届け出により定率法に変更することが出来ます。

2 消費税を税込み処理している場合

確定消費税額を未払消費税に計上する(複式簿記等の条件が付いています)。

3 貸倒引当金を計上する

その年の決算に於いて貸倒引当金を計上する

4 少額減価償却資産の全額損金算入

青色申告者が取得価格が30万円未満の減価償却資産を取得した場合は、所定の手続きをすることによって取得した年に全額必要経費に算入することが出来ます(年間300万円が限度)

5 医療用機器等の特別償却制度

一定の要件を満たす場合に普通償却に加え特別償却額を加算した金額で償却することが認められています。

対象になる医療用機器等

内容対象資産特別償却額
高度な医療用機器500万円以上の特定医療機器取得価額 × 12%
医師及び医療従事者の働き方
改革推進
医療勤務環境改善支援センタ-の助言による
30万円以上の器具・備品・ソフトウエア-
取得価額 × 15%
地域医療構想の実現病院用等の建物及びその付属設備取得価額 × 8%
(2021年4月1日から2023年3月31日までの取得したものが対象)

医療機器は機械及び装置には該当せず、中小企業者等に適用される機械及び装置の特別償却は適用されません。 したがって器具備品に適用される事務処理の能率化等に資するものに該当する場合のみ特別償却が適用されます。

注1参照 会計検査院の判断

医療機器は適用対象となる「機械及び装置」ではなく、「器具及び備品」に区分されるのに、誤って「機械及び装置」と記載したり、医療機器を適用対象となる事務処理の能率化等に資する電子計算機等に該当するとして「器具及び備品」と記載していたりしている誤りがある。 血管造影X線診断装置及び超音波診断装置は医療機器であり、省令によれば、その種類は「器具及び備品」であるものの、規則で定める事務処理の能率化等に資するものに該当しないことから上記の規定は適用できないものであった(会計検査院のHP)

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