所得税―収用等の場合
収用等の場合の課税の特例
収用等の場合の課税の特例には、①課税の繰延べの特例及び②特別控除の特例(5,000 万円控除の特例)があります
課税の繰延べの特例
①資産を収用交換等により譲渡し補償金等の交付を受け、その補償金等で代替資産を取得した場合(収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例)、②補償金等の代わりに譲渡した資産と同種の資産の交付を受けた場合(交換処分等に伴い資産を取得した場合の課税の特例)や③土地区画整理事業等の換地処分等により土地等を取得した場合(換地処分等に伴い資産を取得した場合の課税の特例)があります。
なお、課税の繰延べの特例の概要を分類すれば、次表のとおりです。
区分 | 内容 | 課税方法 | |
1 | 収用等に伴い代替資産を取得した場合 の 課 税 の 特 例 (措法 33) | 土地収用法等による収用を背景として土地、借地権、建物等が、特定の公共事業のために収用、買取り、消滅、取壊し等をされて補償金を取得し、その補償金で収用等のあった年の前年中、収用等のあった年中又は収用等のあった日から2年以内に代替資産を取得し、又は取得する見込みである場合 ※ 工場等の建設等、通常1年を超えると認められる事情がある場合には収用等のあった日の前年以前3年(収用等により譲渡することが明らかになった日以後に限る。)。 | ①収用等により交付される補償金等の額が代替資産の取得価額以下であるときは、その譲渡した資産の譲渡がなかったものとされ、 ②その補償金等の額が、代替資産の取得価額超えるときは、その超える部分に相当する部分の譲渡があったものとして、譲渡所得の計算をします。 |
2 | 交換処分等に伴い資産を取得した場合 の 課 税 の 特 例 (措法 33 の2) | 収用等により、補償金に代えて収用等をされた資産と同種の資産を取得した場合 | 交換処分等により取得した資産を代替資産とみて、納税者の選択により、譲渡がなかったものとして取得価額の引継ぎによる課税の繰延べの特例を受けることができる。 |
3 | 換地処分等に伴い資産を取得した場合 の 課 税 の 特 例 (措法 33 の3) | 土地区画整理事業や土地改良事業による換地処分、市街地再開発事業やマンション建替事業による権利変換により代わりの土地や建物の一部を取得する権利を取得した場合 | 原則として全て換地処分等により譲渡した土地等又は資産の譲渡はなかったものとみなされる 換地処分等に伴い土地等若しくは施設建築物の一部等とともに清算金、保留地の対価、補償金等を取得した場合には、その譲渡した土地等若しくは施設建築物の一部等のうち清算金等に対応する部分の譲渡があったものとして課税される。 |
譲渡所得から最高 5,000万円までの特別控除を差し引く特例
この特例の適用を受けるには、次の要件すべてに当てはまることが必要です。
条件 | 内容 |
⑴ | 売った土地建物は固定資産であること |
⑵ | その年に公共事業のために売った資産の全部について収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例の適用を受けていないこと |
⑶ | 最初に買取り等の申出があった日から6か月を経過した日までに土地建物を売っていること |
⑷ | 公共事業の施行者から最初に買取り等の申し出を受けた者(その者の死亡に伴い相続または遺贈により当該資産を取得した者を含みます。)が譲渡していること |
対象となる補償金の概要
個人が土地等を収用等されることにより取得する補償金には、その実態に応じて多種多様の補償金がありますが、これらの補償金は課税上、次のように区分されます。 これらの補償金のうち収用等の課税の特例の適用がある補償金は、原則として、対価補償金だけです。
主な収用補償金の課税区分一覧表 (国税庁HPより)
補償金の種類 | 税法適用上の区分 | 所得区分 | 摘 要 |
【土地】 | 対価補償金 | 分離譲渡 所得 | 棚卸資産を除きます。 |
土地の取得に係る補償 | |||
土地に関する所有権以 外権利の消滅に係る補償 | |||
【建物等の移転料】 | 移転補償金 | 一時所得 | 実際に建物等を取り壊した場合には、対価補償金として分離譲渡所得とすることができます。 ただし、棚卸資産を除きます。 |
建物移転料 | |||
工作物移転料 | |||
【移転雑費】 | 移転補償金 | 一時所得 | 交付の目的に従って支出した場合には、総収入金額に算入しませ ん(支出後残額が生じた場合は、一時所得の金額の計算上、総収入金額に算入します。)。 |
動産移転料 | |||
仏壇・神棚移転料 | |||
仮住居補償 | |||
仮倉庫補償 | |||
仮車庫補償 | |||
家賃減収補償 | 収益補償金 | 不動産所得 | - |
借家・借間人補償 | 収益補償金 | 総合譲渡所得 | - |
配偶者居住権、配偶者敷地 利用権の消滅等に係る補償 | 対価補償金 | 総合譲渡所得 | - |
墳墓改葬料 | 精神補償金 | 非課税 | - |
弔祭料 | |||
祭祀料 | |||
移転先等の選定に要する費用 | 移転補償金 | 一時所得 | 交付の目的に従って支出した場合には、総収入金額に算入しません(支出後残額が生じた場合は、一時所得の金額の計算上、総収入金額に算入します。)。 ※ 建物を取り壊した場合でも、対価補償金とすることはできません。 |
法令上の手続に要する費用 | |||
転居通知費・移転旅費 | |||
その他雑費 | 補償の実体的な内容に応じて判定 | ||
就業不能補償 | 収益補償金 | 事業又は雑所得 | - |
【立木】 | |||
庭木 | 移転補償金 | 一時所得 | 伐採をした場合は総合譲渡所得 |
用材林 | 対価補償金 | 山林所得 | 所有期間が5年を超えるもの |
収穫樹 | 対価補償金 | 一時所得 | 伐採をした場合は総合譲渡所得 |
営業補償 | 収益補償金 | 事業又は雑所得 | - |
特産物補償 | - | ||
天恵物補償 | - | ||
飲料水補償 | その他の補償金 | 一時所得 | - |
し尿処理補償 | - |
(補償金の内容)
補償金名 | 内容 | 課税方法 |
対価補償金 | 収用等された資産の対価となる補償金 | 譲渡所得の金額または山林所得の金額の計算上、収用等の場合の課税の特例の適用があります。 |
収益補償金 | 資産を収用等されることによって生ずる事業の減収や損失の補てんに充てられるものとして交付される補償金 | その補償金の交付の基因となった事業の態様に応じ、不動産所得の金額、事業所得の金額または雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入します。 ただし、建物の収用等を受けた場合で建物の対価補償金がその建物の再取得価額に満たないときは、収益補償金のうちその満たない部分を対価補償金として取り扱うことができます。 |
経費補償金 | 事業上の費用の補てんに充てるものとして交付される補償金 | (イ) 休廃業等により生ずる事業上の費用の補てんに充てるものとして交付を受ける補償金は、その補償金の交付の基因となった事業の態様に応じ、不動産所得の金額、事業所得の金額または雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入します。 (ロ) 収用等による譲渡の目的となった資産以外の資産(棚卸資産を除きます。)について実現した損失の補てんに充てるものとして交付を受ける補償金は、山林所得の金額または譲渡所得の金額の計算上、総収入金額に算入します。 ただし、事業を廃止する場合等でその事業の機械装置等を他に転用できないときに交付を受ける経費補償金は、対価補償金として取り扱うことができます。 |
移転補償金 | 資産の移転に要する費用の補てんに充てるものとして交付される補償金 | その交付の目的に従って支出した場合は、その支出した額については各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入されません。 その交付の目的に従って支出されなかった場合または支出後に補償金が残った場合は、一時所得の金額の計算上、総所得金額に算入されます。 ただし、建物等を引き家または移築するための補償金を受けた場合で実際にはその建物等を取り壊したときおよび移設困難な機械装置の補償金を受けたときは、対価補償金として取り扱うことができます。 また、借家人補償金は、対価補償金とみなして取り扱われます。 |
その他の補償金 | 原状回復費、協力料などの補償金 | その実態に応じ、各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入します。 ただし、改葬料や精神的補償など所得税法上の非課税に当たるものは課税されません。 |
対価補償の特例
収益補償金名義で交付を受ける補償金を対価補償金として取り扱うことができる場合
33-11 建物の収用等に伴い収益補償金名義で補償金の交付を受けた場合において、当該建物の対価補償金として交付を受けた金額(建物の譲渡に要した費用の額を控除する前の額とし、特別措置等の名義で交付を受けた補償金で33-19により対価補償金として判定すべき金額があるときは、当該金額を含む額とする。)が当該収用等をされた建物の再取得価額に満たないときは、当分の間、納税者が、当該収益補償金の名義で交付を受けた補償金のうち当該満たない金額に相当する金額(当該金額が当該補償金の額を超えるときは、当該補償金の額)を、譲渡所得の計算上当該建物の対価補償金として計算したときは、これを認めるものとする。この場合における当該建物の再取得価額は、次による。
区分 | 内 容 | |
⑴ | 建物の買取り契約の場合 | 建物の買取り契約の場合は、起業者が買取り対価の算定基礎とした当該建物の再取得価額によるものとし、その額が明らかでないときは、当該建物について適正に算定した再取得価額による。 |
⑵ | 建物の取壊し契約の場合 | ① 起業者が補償金の算定基礎とした当該建物の再取得価額が明らかであるときは、その再取得価額による。 |
② ①以外のときは、当該建物の対価補償金として交付を受けた金額(建物の譲渡に要した費用の額を控除する前の額とし、特別措置等の名義で交付を受けた補償金の額を含めない額とする。)に当該建物の構造が木造又は木骨モルタル造りであるときは65分の100を、その他の構造のものであるときは95分の100を、それぞれ乗じた金額による。 | ||
注 | 再取得価額とは、収用等をされた建物と同一の建物を新築するものと仮定した場合の取得価額をいう。 | |
収益補償金名義で交付を受ける補償金を借家人補償金に振り替えて計算することはできないことに留意する。 |
その他租税特別措置法33-12から33-20等まで補償金についての特例あり(別途参照下さい)
収用等された資産の種類が2以上にわたる場合の5,000万円の特別控除の適用順序
土地建物等の譲渡所得と土地建物等以外の資産の譲渡所得とがある場合は次の順序で各所得金額から5,000 万円を控除します。
①分離短期譲渡所得から控除 |
⇩ |
②総合短期譲渡所得から控除 |
⇩ |
③総合長期譲渡所得から控除 |
⇩ |
④山林所得から控除 |
⇩ |
⑤分離長期譲渡所得から控除 |
特例の適用を受けるための添付書類等
必 要 書 類 | |
1 | 確定申告書にこの特例を適用する旨の記載をする |
2 | 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書) |
3 | 収用証明書 |
4 | 公共事業用資産の買取り等の申出証明書 |
5 | 公共事業用資産の買取り等の証明書 |