相続 相続税の計算
相続税額の計算等
設 例
⑴相続人
①配偶者 |
➁子二人(長男、長女) |
⑵資産および負債の相続状況
資産等の種類 | 金額 | 取得者又は負担者 |
①土地 | 3000万円 | 配偶者取得 |
➁建物 | 2000万円 | 配偶者取得 |
➂預金 | 1000万円 | 配偶者取得 |
➃株式 | 3000万円 | 長男1500万円、長女1500万円それぞれ取得 |
⑤住宅ロ-ン | 1900万円 | 配偶者負担 |
⑥葬式費用 | 100万円 | 配偶者負担 |
*土地については居住用小規模宅地の特例適用後の金額 |
相続税額の計算
⑴課税価格の計算
項目 | 配偶者 | 長 男 | 長 女 | 合計金額 |
取得財産の価格 | 60,000,000 | 15,000,000 | 15,000,000 | 90,000,000 |
債務及び葬式費用 | 20,000,000 | 20,000,000 | ||
課税価格 | 40,000,000 | 15,000,000 | 15,000,000 | 70,000,000 |
按分割合* | 0.56 | 0.22 | 0.22 | 1.00 |
遺産に係る基礎控除額 3000万円+600万円× 相続人の数 | 48,000,000 | |||
課税遺産総額 | 22,000,000 |
⑵相続税の総額の計算
相続人 | 法定相続分 | 法定相続分 に応ずる取得価格 | 税 額 |
配偶者 | 1/2 | 11,000,000 | 1,150,000 |
長男 | 1/4 | 5,500,000 | 550,000 |
長女 | 1/4 | 5,500,000 | 550,000 |
総額 | 22,000,000 | 2,250,000 |
⑶各相続人の税額
相続人 | 按分割合 | 各相続人が負担すべき税額 | 配偶者の税額軽減* | 差し引き税額 |
配偶者 | 0.56 | 1,260,000 | 1,260,000 | 0 |
長男 | 0.22 | 495,000 | 495,000 | |
長女 | 0.22 | 495,000 | 495,000 | |
総額 | 1.00 | 2,250,000 | 990,000 |
用語の説明
用 語 | 内 容 |
按分割合 | 各相続人の取得した財産の課税価格 / 課税価格の総額 |
按分割合の端数処理方法 | 明確な規定は有りませんが、小数点以下2位未満の端数がある場合はその財産の取得者全員選択した方法により、各取得者の割合の合計値が1になるよう、端数を調整して、各取得者の相続税を計算しているときは、これを認めて差し支えないものとする(相続税基本通達17条) |
配偶者の税額の軽減
被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、次の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。
(1) 1億6千万円 |
(2) 配偶者の法定相続分相当額 |
(注意事項)
この配偶者の税額軽減は、配偶者が遺産分割などで実際に取得した財産を基に計算されることになっています。したがって、相続税の申告期限までに分割されていない財産は税額軽減の対象になりません。 |
この制度の対象となる財産には、隠蔽または仮装されていた財産は含まれません。 |
*(相続税の税率表)
法定相続分に応ずる取得金額 | 税 率 | 控 除 額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
*この速算表で計算した法定相続人ごとの税額を合計したものが相続税の総額になります。
相続開始前3年以内の贈与加算
概 略
生前に被相続人の財産を相続人等に贈与して相続税の課税対象となる財産を減らすことで相続税を減らすことが出来ます。 しかし、国税庁としても節税目的で、亡くなる直前に行われる生前贈与を無制限に認めると課税の公平を保つことが出ませんので、被相続人の死亡日前3年以内の贈与財産のうち一定の要件を満たすものを、その人の相続税の課税価格に贈与時の価額を加算して相続税を計算することにしています。 相続税の実務上、これを生前贈与加算といいます。
生前贈与加算の対象となる人
相続、遺贈及び相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人が、被相続人からその相続開始前3年以内(死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡の日までの間)に暦年課税に係る贈与によって取得した財産があるときには、その人の相続税の課税価格に贈与を受けた財産の贈与の時の価額を加算します。 生前贈与加算の対象となるのは、下記に該当する人です。
相続や遺贈により財産を取得した人
生前贈与加算の対象者は法定相続人か否かではなく、「実際に相続や遺贈によって何らかの財産を取得したかどうか」によって判断されます。したがって、法定相続人でも相続放棄などの理由により財産を取得しない場合には、生前贈与加算は不要となります。また、相続人ではない孫でも遺言によって何らかの財産を遺贈された場合には、生前贈与加算の対象となります。
みなし相続財産の受取人(相続や遺贈により財産を取得した人に該当します)
みなし相続財産とは、生命保険金や死亡退職金など、民法上の相続財産ではないものの、相続税の課税対象とにる財産をいいます。 遺産分割や遺言によって財産を取得しなかった場合でも、みなし相続財産の受取人となっている場合は、その人が死亡日前3年以内に贈与を受けた財産については生前贈与加算の対象となります。
相続時精算課税制度の適用者
相続時精算課税制度とは、贈与財産の種類にかかわらず、60歳以上の直系尊属(父母や祖父母)から18歳以上の子や孫への贈与について、累計で2,500万円まで贈与税が非課税となる制度です。
この制度の適用を受けて贈与した財産については、死亡日前3年以内かどうかに関係なく、相続発生時には必ず相続財産に加算しなければなりません。 また、相続時精算課税制度により贈与を受けた人は、相続発生時に財産を取得しなかった場合でも、死亡日前3年以内の贈与があれば生前贈与加算の対象となります。
生前贈与加算の対象とならない人
法定相続人でも相続や遺贈によって財産を取得しなかった場合には、死亡日前3年以内に贈与を受けていたとしても生前贈与加算の対象とはなりません。
したがって暦年贈与によって財産を取得したとしても、相続放棄によって一切財産を取得しなかった法定相続人のうち、みなし相続財産の受取人や相続時精算課税制度の適用者に該当しない人や孫などは、生前贈与加算の対象から外れます。
生前贈与加算の対象になる贈与
3年以内であれば贈与税がかかっていたかどうかに関係なく加算します。したがって、基礎控除額110万円以下の贈与財産や死亡した年に贈与されている財産の価額も加算することになります。
死亡日前3年以内の贈与でも加算されない贈与
贈与税の配偶者控除
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産や居住用不動産を取得するための資金を贈与した場合については、最高で2,000万円が非課税となる制度です。
結婚・子育て資金の一括贈与
直系尊属(父母や祖父母などの)から、18歳以上50歳未満の子や孫に対し、金融機関等との一定の契約に基づいて、結婚や子育て資金として一括贈与を行った場合には、最大1,000万円が非課税となる制度です。
教育資金の一括贈与
直系尊属(父母や祖父母などの)から、30歳未満の子や孫に対し、金融機関等との一定の契約に基づいて、教育資金として一括贈与を行った場合には、最大1,500万円が非課税となる制度です。
住宅取得等資金の贈与
一定の要件を満たす居住用不動産を取得するために、直系尊属(父母や祖父母など)のから購入資金の贈与を受けた場合において、最大で1,000万円が非課税となる制度です。
2023年度の贈与加算に関する重要な税制改正
(注) 2023年度の税制改正より下記項目が改正されました(2024年1月1日からの相続に適用されます。
(改正項目)
1 加算される期間が3年から7年に延長
2 相続開始前4~7年の間に取得した財産から100万円を控除する
スケジュール表
相続日 | 加算対象期間 | ||||||||||
2021 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025 | 2026 | 2027 | 2028 | 2029 | 2030 | 2031 | |
2024 7/1 (令和6年) | 2021.7/1 ➡ 2024.6/30 (3年) | ||||||||||
2025 7/1 (令和7年) | 2022.7/1 ➡ 2025.6/30 (3年) | ||||||||||
2026 7/1 (令和8年) | 2023.7/1 ➡ 2026.6/30 (3年) | ||||||||||
2027 7/1 (令和9年) | 2024.1/1 ➡ 2027.6/30 (3年6か月) | ||||||||||
2028 7/1 (令和10年) | 2024.1/1 ➡ 2028.6/30 (4年6か月) | ||||||||||
2029 7/1 (令和11年) | 2024.1/1 ➡ 2029.6/30 (5年6か月) | ||||||||||
2030 7/1 (令和12年) | 2024.1/1 ➡ 2030.6/30 (6年6か月) | ||||||||||
2031 7/1 (令和13年) | 2024.7/1 ➡ 2031.6/30 (7年) | ||||||||||
注 2031年(令和13年)以降に相続開始した場合はすべて7年となります |
相続税法上の非課税財産
相続税法上の非課税財産
1 皇室経済法第7条の規定ににより皇位とともに皇嗣が受けたもの
皇位とともに皇室に伝わる由緒ある物
2 墓所、霊びょう及び祭具並びにこれらに準ずるもの
墓所、霊びょうとは、墓所、墓石等のほか、尊厳の維持に必要な土地その他、神棚、物体、神具、仏壇、位牌、仏像で日常礼拝の用に供しているものが該当します。
3 宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う者で政令で定めるものが相続又は遺贈により取得した財産で当該公益を目的とする事業の用に供することが確実なもの
4 個人立幼稚園等の教育用財産
個人立の一定の幼稚園等を設置し、運営する事業を承継した個人で一定のものは当分の間非課税とされています。
5 条例の規定により地方公共団体が精神又は身体に障害のある者に関して実施する共済制度で政令で定めるものに基づいて支給される給付金を受ける権利
6 相続人の取得した相続税法第三条第一項第一号に掲げる保険金(前号に掲げるものを除く。以下この号において同じ。)については、イ又はロに掲げる場合の区分に応じ、イ又はロに定める金額に相当する部分
イ 第三条第一項第一号の被相続人のすべての相続人が取得した同号に掲げる保険金の合計額が五百万円に当該被相続人の第十五条第二項に規定する相続人の数を乗じて算出した金額(ロにおいて「保険金の非課税限度額」という。)以下である場合 当該相続人の取得した保険金の金額
ロ イに規定する合計額が当該保険金の非課税限度額を超える場合 当該保険金の非課税限度額に当該合計額のうちに当該相続人の取得した保険金の合計額の占める割合を乗じて算出した金額
7 相続人の取得した相続税法第三条第一項第二号に掲げる給与(以下この号において「退職手当金等」という。)については、イ又はロに掲げる場合の区分に応じ、イ又はロに定める金額に相当する部分
イ 第三条第一項第二号の被相続人のすべての相続人が取得した退職手当金等の合計額が五百万円に当該被相続人の第十五条第二項に規定する相続人の数を乗じて算出した金額(ロにおいて「退職手当金等の非課税限度額」という。)以下である場合 当該相続人の取得した退職手当金等の金額
ロ イに規定する合計額が当該退職手当金等の非課税限度額を超える場合 当該退職手当金等の非課税限度額に当該合計額のうちに当該相続人の取得した退職手当金等の合計額の占める割合を乗じて算出した金額
租税特別措置法上の非課税財産
1 国等へ相続財産を贈与した場合の非課税
相続により取得した財産を相続税の申告期限までに、国又は地方公共団体等の一定の者に贈与した場合には、租税特別措置法第70条《国等に対して相続財産を贈与した場合等の相続税の非課税等》により当該贈与した財産の価額は、相続税の課税価格の計算の基礎に算入しないこととされています。
2 特定公益信託に係る相続税の非課税
相続により取得した財産を相続税の申告期限までに、特定信託会社(その公益信託が、教育や科学の振興などに貢献することが著しいと認められるなど一定のものであること)に贈与した場合には、当該贈与した財産の価額は、相続税の課税価格の計算の基礎に算入しないこととされています。
財産を相続した時にすべきこと
相続するべきか相続放棄するべきかの判断
相続放棄をした方がいい場合
相続人が財産を相続する時に最初にするべきことは、相続すべきか、相続放棄すべきかの判断です。下記の様な場合は相続放棄をした方がよい思われます。
⑴ プラスの財産(資産)< マイナスの財産(負債)
⑵ 相続争いに巻き込まれたくない場合
1 相続放棄の手続き
相続放棄の手続きが可能な期間は相続の開始を知った日から3ヶ月以内
相続放棄ができる期間は、被相続人が亡くなってから(相続の開始を知ってから)3カ月以内です。期限内に申述書を家庭裁判所に提出しなければなりません。判断に3カ超かかりそうな場合は、所定の手続きをすることで、期間を延ばすことができます。
2 相続放棄する場合の注意事項
⑴ 準確定申告
通常、被相続人が年の途中で亡くなった場合は、相続人は相続の開始があったことを知った日(亡くなった日)の翌日から4ヶ月以内に準確定申告書を、税務署に提出する必要があります。 しかし、相続放棄をしようとしている人が、準確定申告を行ってしまうと、「単純承認」をしたものとみなされてしまい、相続放棄が認められない可能性がありますので、決して準確定申告をしないでください。
⑵ 法定単純承認
民法第921条(法定単純承認)に、次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなすと規定されていますのでこれらの行為も決してしないでください。
①相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
➁相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
➂相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
限定承認をした方がいい場合
被相続人について資産と負債の総額が不透明という場合。 このような場合、相続放棄をした後、資産のほうが上回っていることが判明これば、損をしてしまいます。上記のような場合には相続放棄よりも「限定承認」を行うことを検討したほうがよいと思われます。
*限定承認とは
限定承認とは相続によって得た財産の範囲内で、被相続人の債務を弁済する方法です。相続人がこの方法を選択した場合は、被相続人の債務は相続財産のみで支払い、不足する分は相続人が支払う必要はありません。
*限定承認の手続き
限定承認の手続きが可能な期間は相続の開始を知った日から3ヶ月以内
財産を相続した時の相続税の申告の判断
被相続人から各相続人等が相続又は遺贈などにより取得した財産の合計額が基礎控除額を超える場合は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に相続税の確定申告書を提出する必要が有ります。 (例えば、2月1日に死亡した場合にはその年の12月1日が申告期限になります。)
課税遺産総額の計算
⑴遺産総額等
相続等により取得した財産の価額(遺産総額) + 相続時精算課税の適用を受ける財産の価額の合計 *財産の評価方法は当HPの財産の評価方法を御参照下さい |
⑵遺産総額
遺産総額等 - (債務、葬式費用、非課税財産) |
⑶正味の遺産総額
遺産総額 + (相続開始前3年以内の暦年課税にかかる贈与財産の価額) |
⑷課税遺産総額
正味の遺産総額 - 基礎控除 |
基礎控除
基礎控除 = 3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 |
確定申告不要
正味の遺産総額が基礎控除を超えない場合は相続税の確定申告書の提出は必要ありません
養子の数
被相続人に養子がいる場合 法定相続人に含める養子の数は
区分 | 養子の数 |
① 実子がいる場合 | 最大1人まで |
➁ 実子がいない場合 | 最大2人まで |
非課税財産
区分 | 非課税財産 |
①お墓、仏壇等 | 時価相当額 |
➁国、地方公共団体、特定の公益団体に寄附した財産 | 寄附した財産 |
➂生命保険金のうち | 500万円 × 法定相続人の数 |
➃死亡後に受ける退職金のうち | 500万円 × 法定相続人の数 |
相続税の計算
設 例
⑴ 相続人
①配偶者 |
➁子二人(長男、長女) |
⑵ 資産および負債の相続状況
資産明細 | 金額 | 取得者又は負担者 |
①土地 (居住用小規模宅地の特例適用後の金額) | 3000万円 | 配偶者 |
➁建物 | 2000万円 | 〃 |
➂預金 | 1000万円 | 〃 |
➃株式 | 3000万円 | 長男1500万円、長女1500万円それぞれ取得 |
⑤住宅ロ-ン | 1900万円 | 配偶者 |
⑥葬式費用 | 100万円 | 〃 |
相続税額の計算
⑴ 課税価格の計算
項目 | 配偶者 | 長男 | 長女 | 合計金額 |
取得財産の価格 | 60,000,000 | 15,000,000 | 15,000,000 | 90,000,000 |
債務及び葬式費用 | 20,000,000 | 20,000,000 | ||
課税価格 | 40,000,000 | 15,000,000 | 15,000,000 | 70,000,000 |
按分割合* | 0.56 | 0.22 | 0.22 | 1.00 |
遺産に係る基礎控除額 3000万円+600万円× 相続人の数 | 48,000,000 | |||
課税遺産総額 | 22,000,000 |
⑵ 相続税の総額の計算
相続人 | 法定相続分 | 法定相続分 に応ずる取得価格 | 税 額 |
配偶者 | 1/2 | 11,000,000 | 1,150,000 |
長男 | 1/4 | 5,500,000 | 550,000 |
長女 | 1/4 | 5,500,000 | 550,000 |
総額 | 22,000,000 | 2,250,000 |
⑶ 各相続人の税額
相続人 | 按分割合 | 各相続人が負担すべき税額 | 配偶者の税額軽減 | 差し引き税額 |
配偶者 | 0.56 | 1,260,000 | 1,260,000 | 0 |
長男 | 0.22 | 495,000 | 495,000 | |
長女 | 0.22 | 495,000 | 495,000 | |
総額 | 1.00 | 2,250,000 | 990,000 |
*按分割合 各相続人の取得した財産の課税価格 / 課税価格の総額
*按分割合の端数処理方法
明確な規定は有りませんが、小数点以下2位未満の端数がある場合はその財産の取得者全員選択した方法により、各取得者の割合の合計値が1になるよう、端数を調整して、各取得者の相続税を計算しているときは、これを認めて差し支えないものとする(相続税基本通達17条)
配偶者の税額の軽減
被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、次の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。
(注) この制度の対象となる財産には、隠蔽または仮装されていた財産は含まれません。
(1) 1億6千万円 |
(2) 配偶者の法定相続分相当額 |
この配偶者の税額軽減は、配偶者が遺産分割などで実際に取得した財産を基に計算されることになっています。
したがって、相続税の申告期限までに分割されていない財産は税額軽減の対象になりません。
相続税額の加算
相続又は遺贈により財産を取得した者が、被相続人の一親等の血族(被相続人の直系卑属が相続開始前に死亡し、また相続権を失ったため、代襲して相続人になった直系卑属は含みます)及び配偶者以外のものである場合は、その者の相続税額は規定に基づき算出した相続税額に20%を加算した金額になります。
贈与税額の控除
相続又は遺贈により財産を取得した者が、その相続の開始前3年以内に被相続人から生前贈与を受けていた場合、その課税価格に贈与により取得した財産の価格を加算したものに相続税が課税されます。 この場合に、すでに課税された贈与税又は課税されるべき贈与税があるときは、その相続税から控除した税額が納付すべき相続税となります。
未成年者控除
相続又は遺贈により財産を取得した者(制限納税義務者は除きます)が相続人(相続放棄があった場合にはその相続放棄がなかったものとした場合における相続人をいいます)に該当し、かつ20歳未満(令和4年1月1日以後は18歳未満)である場合には、その者が納付すべき相続税額は規定により計算した相続税額から下記の金額を控除した金額が納付すべき相続税額になります。
未成年者控除の額 = その未成年者が満20歳(令和4年1月1日以後は満18歳)になるまでの年数 × 10万円
この場合に控除しきれなかった金額がある場合はその者の扶養義務者の相続税額から控除することが出来ます。
障害者控除
相続又は遺贈により財産を取得した者(非居住無制限納税義務者及び制限納税義務者は除きます)が相続人(相続放棄があった場合にはその相続放棄がなかったものとした場合における相続人をいいます)に該当し、かつ障害者であるときは、その者が納付すべき相続税額は規定により計算した相続税額から下記の金額を控除した金額が納付すべき金額になります。
障害者控除の額 = その障害者が85歳になるまでの年数 × 10万円(特別障害者である場合は20万円)
この場合に控除しきれなかった金額がある場合はその者の扶養義務者の相続税額から控除することが出来ます。
相次相続控除
相続人が相続により財産を取得した場合に、その相続「第二次相続」開始前10年以内に開始した相続「第一次相続」において、被相続人が相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得し、相続税が課されていた場合には、その被相続人から相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人の相続税額から、一定の金額を控除する制度です。
相次相続控除が受けられる人
相次相続控除が受けられるのは次のすべてに当てはまる人です。
番号 | 内 容 |
1 | 被相続人の相続人であること。 相続の放棄をした人および相続権を失った人がたとえ遺贈により財産を取得しても、この制度は適用されません。 |
2 | その相続の開始前10年以内に開始した相続により被相続人が財産を取得していること。 |
3 | その相続の開始前10年以内に開始した相続により取得した財産について、被相続人に対し相続税の課税がされていること。 |
相次相続控除の額
各相続人の相次相続控除額は、下記の算式により計算した金額です。
A×C/(B-A) [求めた割合が100/100を超えるときは、100/100とする]×D/C×(10-E)/10 |
(記号の説明)
記号 | 説 明 |
A | 第二次相続の被相続人が第一次相続相続の際に課せられた相続税額 この相続税額は、相続時精算課税分の贈与税額控除後の金額をいい、その被相続人が納税猶予の適用を受けていた場合の免除された相続税額ならびに延滞税、利子税および加算税の額は含まれません。 |
B | 第二次相続の被相続人が第一次相続の際に取得した純資産価額{取得財産の価額+相続時精算課税適用財産の価額-債務および葬式費用の金額(以下同じ)} |
C | 第二次相続の相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得したすべての人の純資産価額の合計額 |
D | 第二次相続のその相続人の純資産価額 |
E | 第一次相続から今第二次相続までの期間(1年未満の期間は切り捨てます。) |
(相続税の税率表)
法定相続分に応ずる取得金額 | 税 率 | 控 除 額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
*この速算表で計算した法定相続人ごとの税額を合計したものが相続税の総額になります。
相続税の申告が必要かどうかの判断
課税遺産総額がゼロの場合は申告の必要は有りませんが、配偶者の税額軽減の適用や、小規模宅地等の特例を適用して計算した結果、税額がゼロになった場合は申告書を提出する必要が有りますので注意が必要です。
相 続 登 記
相続財産に不動産が含まれている場合には、相続登記が必要です。2022年6月1日時点では相続登記に申請義務がなく、相続登記を申請するための期限はありません。 しかし、2024年4月1日以降は相続により(遺言による場合を含みます。)不動産を取得した相続人は、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならないこととされました。
また、相続で不動産取得を知った日から3年以内に正当な理由なく登記・名義変更をしないと10万円以下の過料の対象となります。
1 令和6年(2024)4月1日以後の相続
相続で自己のための相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。
また相続で不動産取得を知った日から3年以内に正当な理由なく登記・名義変更をしないと10万円以下の過料の対象となります。
2 令和6年(2024)4月1日前の相続
今回の法改正により、施行日前に相続が発生していたケースについても、登記の申請義務は課されます。 この場合、施行日又は相続による所有権の取得を知った日のうちいずれか遅い日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。
相続時精算課税
制度の概要
1 相続時精算課税の制度とは、原則てして60歳以上の父母または祖父母から、20歳以上の子または孫(贈与者の直系卑属)に対し、財産を贈与した場合において、その贈与によって財産を取得した者は、贈与に係る財産について相続時精算課税の規定の適用を受けることができる贈与税の制度です。 この制度を選択する場合には、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日(贈与税の申告期限)の間に一定の書類を添付した贈与税の申告書を提出する必要があります。
2 なお、この制度を選択すると、その選択に係る贈与者から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降すべてこの制度が適用され、暦年課税へ変更することはできません。
3 相続時精算課税は、受贈者(子または孫)が贈与者(父母または祖父母)ごとに選択できます。
4 また、この制度の贈与者である父母または祖父母が亡くなった時の相続税の計算上、相続財産の価額にこの制度を適用した贈与財産の価額(贈与時の時価)を加算して相続税額を計算します。
上記のように、相続時精算課税の制度は、贈与税・相続税を関係づけて課税が行われる制度です。
(注1) 「20歳」とあるのは、令和4年4月1日以後の贈与については「18歳」となります。
(注2) 暦年課税とは、まず、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与によりもらった全ての財産の価額を合計し、続いて、その合計額から基礎控除額110万円控除し、そして次に、その控除後の金額(千円未満切り捨)に贈与税率を乗じて税額を計算する制度です。
(注3)相続時精算課税に係る贈与税額を計算する際には、暦年課税の基礎控除額110万円を控除することはできませんので、贈与を受けた財産が110万円以下であっても贈与税の申告をする必要があります。
適用対象者
贈与者は
贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母または祖父母
受贈者は
贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の者のうち、贈与者の直系卑属(子や孫)である推定相続人または孫とされています。
なお、贈与により「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例(措法70の7の5)」の適用に係る非上場株式等を取得する場合、贈与者が贈与をした年の1月1日において60歳以上であれば、受贈者が贈与者の直系卑属(子や孫)である推定相続人以外の者(贈与を受けた年の1月1日において20歳(注)以上の者に限ります。)でも適用できます。
また、贈与により「個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予及び免除(措法70の6の8)」の適用に係る事業用資産を取得する場合、贈与者が贈与をした年の1月1日において60歳以上であれば、受贈者が贈与者の直系卑属(子や孫)である推定相続人以外の者(贈与を受けた年の1月1日において20歳(注)以上の者に限ります。)でも適用できます。
(注) 「20歳」とあるのは、令和4年4月1日以後の贈与については「18歳」となります。
適用対象財産等
全ての贈与財産が対象になり、種類、金額、回数に制限はありません。
税額の計算方法
(1)贈与税額の計算
相続時精算課税の適用を受ける贈与財産については、その選択をした年以後、相続時精算課税に係る贈与者以外の者からの贈与財産と区分して、1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額を基に贈与税額を計算します。
区 分 | 税 額 |
➀ 特定贈与者(相続時精算課税に係る贈与者)からの財産に係る贈与税 | 贈与財産の価額の合計額から、特別控除額2,500万円(ただし、前年以前において、既にこの特別控除額を控除している場合は、残額が限度額となります。)を控除した後の金額に、一律20パーセントの税率を乗じて算出します。 |
➁ 特定贈与者以外からの財産に係る贈与税 | その贈与財産の価額の合計額から暦年課税の基礎控除額110万円を控除し、贈与税率を贈与乗じて税額を計算します。 |
尚具体的な計算方法は当HPの贈与税の計算方法を御参照下さい。
(贈与税率)
現在の贈与税の税率は、次のとおり、「一般贈与財産」と「特例贈与財産」に区分されています。
<一般贈与財産用>(一般税率)
この速算表は、「特例贈与財産用」に該当しない場合の贈与税の計算に適用します。
基礎控除後の課税価格 | 200万円 以下 | 300万円 以下 | 400万円 以下 | 600万円 以下 | 1,000万円 以下 | 1,500万円 以下 | 3,000万円 以下 | 3,000万円 超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
税 率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ‐ | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
<特例贈与財産用>(特例税率)
この速算表は、贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の者が、直系尊属から贈与により取得した財産に係る贈与税の計算に適用します。
(注) 「20歳」とあるのは、令和4年4月1日以後の贈与については「18歳」となります。
基礎控除後の課税価格 | 200万円 以下 | 400万円 以下 | 600万円 以下 | 1,000万円 以下 | 1,500万円 以下 | 3,000万円 以下 | 4,500万円 以下 | 4,500万円 超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
税 率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ‐ | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
(2)相続税額の計算
相続時精算課税を選択した者に係る相続税額は、相続時精算課税に係る贈与者が亡くなった時に、それまでに贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の価額(贈与時の価額)と相続や遺贈により取得した財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めた相続時精算課税に係る贈与税相当額を控除して算出します。
その際、相続税額から控除しきれない相続時精算課税に係る贈与税相当額については、相続税の申告をすることにより還付を受けることができます。
手 続 き
申告等の方法
相続時精算課税を選択しようとする贈与を受けた者(子または孫)は、その選択に係る最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間(贈与税の申告書の提出期間)に納税地の所轄税務署長に対して相続時精算課税選択届出書を受贈者の戸籍の謄本などの所定の書類とともに贈与税の申告書に添付して提出することとされています。
申告先等
所轄税務署
2023年度の相続時精算課税に関する重要な税制改正
相続時精算課税に関する改正は、納税者にとっては暦年贈与に対する課税強化とは対照的に、下記のような有利な改正になりました。(改正後の相続時精算課税制度が適用されるのは、令和6年1月1日以降に行われる贈与によって取得する財産に係る相続税又は贈与税です。)
年110万円の基礎控除の創設
相続時精算課税制度に年110万円の基礎控除が創設されました。 相続時精算課税制度の適用を受けた贈与については、その財産の全額が相続財産への持ち戻し対象となっていましたが、今回の改正後では年110万円以下の部分については加算する必要がなくなりました。
申告不要制度
相続時精算課税制度の選択をすると、その贈与者からの贈与を受けた年は贈与税申告をしなければなりませんでしたが、110円以下であれば贈与税申告も不要となりました。
相続税を少なくする方法
一般的に相続財産を減らすことなく相続税を少なくする方法及び相続財産を子、孫に贈与することによって相続税を少なくする方法は、下記の様に存在しますので、それぞれの状況に応じて参考にして下さい。
1相続財産を減らすことなく財産の評価を下げることにより相続税を少なくする方法
⑴ 土地を現金預金で取得する
現金預金で土地を取得することで、土地が増え、現金預金が減少しますが、財産の総額の変動はありません。しかしながら評価方法の違いにより土地の相続税の評価は財産評価基本通達により評価することになっていますので、一般的に下記の様に時価と比較した場合に、時価の約60%~80%になる場合が有ります。
土地の状況 | 詳細 | 評価額 |
➀更地 | 相続税評価額(約時価の80%以下) | |
➁貸宅地 | 宅地を賃貸している場合 | 相続税評価額×(1-借地権割合) |
➂貸家建付地 | 土地の上に建物を建て賃貸している状況 | 相続税評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合) |
➃小規模宅地等の特例 | 自分の居住用家屋の敷地等で一定のもの(特定居住用宅地等) | 相続税評価額-相続税評価額×減額割合 |
注1 ➁➂の場合で使用貸借に該当する場合はの場合は➀の更地の評価になります |
原則として不小規模宅地等の特例は故人と同居していた親族ではないと適用されませんが、特例として故人と同居していなかった親族でも一定の要件を満たせば小規模宅地等の特例が適用され、土地の評価額を減額することができます。
用語の説明
借地権割合 | 路線価表に記載されています |
借家権割合 | 財産評価基本通達によって一律に定められています |
賃貸割合 | 課税時期において賃貸されている各独立部分の床面積の合計/その貸家の各独立部分の床面積の合計 |
注1 | 賃貸割合を計算する場合に、一時的空室部分(一時的に空室になった部屋)について「継続的に賃貸されてきたもので、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められる各独立部分がある場合には、その各独立部分の床面積を、賃貸されている各独立部分の床面積に加えて賃貸割合を計算して差し支えありません。」と評価通達に規定されていますので評価減の対象になります。 但し空室の期間等により一時的空室部分に認められない場合もありますので注意が必要です。 |
注2 | 「継続的に賃貸されてきたもので、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められる」部分の範囲 アパート等の一部に空室がある場合の一時的な空室部分が、「継続的に賃貸されてきたもので、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められる」部分に該当するかどうかは、その部分が、下記基準に照らして該当するかどうかのかどうかの判断をします。 ①各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものかどうか、 ②賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われたかどうか、 ③空室の期間、他の用途に供されていないかどうか ➃空室の期間が課税時期の前後の例えば1ケ月程度であるなど一時的な期間であったかどうか、 ➄課税時期後の賃貸が一時的なものではないかどうかなどの事実関係から総合的に判断します。 |
小規模宅地等の特例の内容は下記の通りです。
宅地の利用区分 | 限度面積 | 減額割合 |
特定居住用宅地等である小規模宅地等 | 330㎡ | 80% |
特定事業用宅地等である小規模宅地等 | 400㎡ | 80% |
特定同族会社事業用宅地等である小規模宅地等 | 400㎡ | 80% |
貸付事業用宅地等である小規模宅地等 | 200㎡ | 50% |
小規模宅地等の特例の適用要件の詳細は当HP土地の評価をご確認ください
⑵ 建物を現金預金で取得する
建物の状況 | 詳細 | 評価額 |
➀自用家屋 | 約時価の60% (固定資産税の評価額×1.0) | |
➁貸家 | 建物を賃貸している状況 | 約時価の60%以下 [固定資産税の評価額×1.0×(1-借家権割合×賃貸割合)] |
注1 ➁の場合で使用貸借に該当する場合の場合は➀自用家屋の評価になります 注2 建築中の家屋は費用現価×70% |
⑶ 上記⑴⑵の場合に注意すべき点
土地、建物を借入金で取得した場合において、その行為が相続発生直前に行われたときの評価額が不動産鑑定評価額になった判例も有ります。 したがいまして単に相続税を減らす目的だけでなく、収益を目的とした不動産投資等を相続発生以前から相当長期に渡り行うことをお勧め致します。
⑷ 非課税財産の購入
墓地、仏壇、仏具及び祭具の購入した場合、現金等は減少しますが、非課税財産は増加し、その結果財産の増減はゼロですが非課税財産分だけ課税価額は減少します。
ただし、仏具及び祭具等で、骨董品、投機の対象となるもの(金製品等)は非課税になりません。
⑸ 生命保険金等の非課税枠を利用する
相続税においては、みなし相続財産である生命保険には非課税枠があります。 現金で生命保険に加入した場合に受け取る保険金から非課税部分だけ課税価額が低くなります。
非課税枠 = (500万円×法定相続人の数)
⑹ 相続時精算課税制度の利用により将来値上がりすると見込まれる資産を贈与する
相続時精算課税とは、一定の条件のもと親から子や孫に資産を贈与した場合に、相続時精算課税制度を利用することにより、贈与時点で、課税価額の20%の贈与税を支払い、将来相続が発生した時に当該贈与財産を相続財産に加算し、相続税額を計算し、そこからその贈与税を差し引くという制度です。 この場合、相続財産への加算は贈与時の評価額で行われますので、贈与時から相続発生までの評価益に対しては課税されないことになりますが、逆に値下がりした場合は評価減部分だけ余分に課税されることになります。 従って個別資産の選択は慎重に行う必要があり、また一度この制度を適用すると暦年贈与課税には戻れませんので注意が必要です。 具体的には下記のような資産が該当すると思われますが、絶対値上がりするという保証は有りませんのでその点ご理解願います。
インフレ時の金 |
業績の良い非上場の自社株式 |
業績の良い上場株式 |
⑺ 養子縁組より法定相続人を増やす
養子縁組の影響
養子縁組をおこなうことによって法定相続人の数が増えますので、下記のように基礎控除額及び非課税枠が増え、相続税を少なくすることができます。
区 分 | 金 額 |
相続税の基礎控除額 | 3000万円+600万円 × 法定相続人の数 |
生命保険金等の非課税枠の金額 | 500万円 × 法定相続人の数 |
死亡退職金等の非課税枠の金額 | 500万円 × 法定相続人の数 |
相続税の総額の計算 | 一人当たりの相続分が減少することで、税率が下がる |
養子の数
相続税法上で、法定相続人の数として認められる養子の人数には制限があります。 養子の数は実子がいる場合といない場合により下記のように区分され制限されています。
区 分 | 人 数 |
実子がいる場合 | 一人まで |
実子がいない場合 | 二人まで |
⑻ 事業承継税制
法人版事業承継税制は、後継者である受贈者・相続人等が、円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において、その非上場株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。
なお、法人版事業承継税制の適用に当たっては、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づく認定等が必要となりますが、認定等に係る申請書・報告書の提出に関する窓口・お問い合わせ先は、都道府県の担当課となります。
順調に進めば非常にメリットがある制度ですが同時にデメリットも多数存在しますので慎重に行うことをお勧めいたします。
この制度が適用される条件
要件項目 | 要 件 |
先代経営者 | ①会社の代表取締役を経験したことがあること ②贈与(又は相続)の直前に会社の筆頭株主であったこと ③贈与後において代表取締役ではないこと |
後継者 | ①贈与を受ける時に会社の代表取締役になっていること ②贈与(又は相続)を受けることにより、会社の筆頭株主になること ③贈与で事業承継税制を受ける場合には、贈与前に3年間継続してその会社の役員であること ➃相続発生時には役員でなければいけません |
会社 | 会社が中小企業者に該当すること(中小企業者の規定は中小企業庁HP参照ください) |
継続条件 | ①後継者が5年間社長であり続けること ②株主であり続けること ③雇用の8割を守ること ➃5年間継続届出書等の書類を提出し続け、その後3年ごとに書類を提出し続けること(失念すると猶予が打ち切りになる) |
免除の条件 | ①後継者が、次の代に事業承継すること ②後継者が次の代に事業承継する前に、後継者が死亡してしまった場合には、猶予されていた税金は全額免除になります |
(デメリット)
⑴ 承認手続が非常に煩雑であるし、以後の手続きも同じく非常に煩雑である
⑵ 状況次第(単純に廃業の場合、手続きの失念等)で納税猶予が打ち切られる。 この場合本来の税金に加算税が付加される。
⑶ 打ち切り事由に該当した場合は、納税猶予が打ち切られる。 この場合本来の税金に加算税が付加される
2 資産を減らして相続税を少なくする方法
⑴ 毎年相続人に贈与する
非課税枠(110万)を利用し相続人に贈与することで贈与税を払わずに相続財産を減らすことが出来ます。 また相続税率と贈与税率を比較して、贈与税率が低い場合は非課税枠(110万)を超えても毎年相続人に贈与することによって、贈与税は支払いますが、相続税を少なくすることが出来ますので税率の差額分だけ税負担を減らすことが出来ます。 この場合に、毎年同じ金額(110万円)を贈与し続けると、最初の年に総額を贈与したものとして課税される恐れがありますので時期、金額を変えることをお勧めいたします。
相続税の税率
法定相続分に応ずる取得金額 | 税 率 | 控 除 額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
一般の贈与税率
基礎控除後の課税価格 | 200万円 以下 | 300万円 以下 | 400万円 以下 | 600万円 以下 | 1,000万円 以下 | 1,500万円 以下 | 3,000万円 以下 | 3,000万円 超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
税 率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ‐ | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
特例贈与財産用(特例税率)
この速算表は、贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の者が、直系尊属から贈与により取得した財産に係る贈与税の計算に適用します。
(注) 「20歳」とあるのは、令和4年4月1日以後の贈与については「18歳」となります。
基礎控除後の課税価格 | 200万円 以下 | 400万円 以下 | 600万円 以下 | 1,000万円 以下 | 1,500万円 以下 | 3,000万円 以下 | 4,500万円 以下 | 4,500万円 超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
税 率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ‐ | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
⑵ 居住用不動産等の配偶者への贈与
「居住用不動産贈与時の配偶者控除の特例」を利用して、居住用の不動産、もしくはその不動産の購入資金の贈与ができます。 この場合通常の控除(110万円)と2000万円の合計(2110万円)を贈与した資産の評価額から控除して贈与税を計算します。 なおこの特例を適用するには下記の条件を満たしていることが必要です。
(条 件)
夫婦の婚姻期間が20年以上 |
贈与財産が、国内の居住用不動産または居住用不動産の取得資金であること |
贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与された又は取得した不動産に居住し、その後も居住する見込みであること |
一定の書類を添付して贈与税の申告を行うこと |
前年以前に同じ配偶者からこの特例を受けていないこと。 |
⑶ 相続人が相続や遺贈により取得した相続財産を国等へ贈与した場合
相続や遺贈によって取得した財産を、相続税の申告期限までに、国、地方公共団体、公益を目的とする事業を行う特定の法人または認定非営利活動法人(認定NPO法人)に寄附した場合や特定の公益信託の信託財産とするために支出した場合は、その寄附をした財産や支出した金銭は相続税の対象としない特例があります。
寄 付 先 | 条 件 |
国、地方公共団体または公益を目的とする事業を行う特定の法人に寄附した場合 | ⑴ その取得した財産を相続税の申告書の提出期限までに寄附すること。 ⑵ 寄附した先が国、地方公共団体、教育や科学の振興などに貢献することが著しいと認められる公益を目的とする事業を行う特定の法人(以下「特定の公益法人」といいます。)であること。 (注)特定の公益法人の範囲は独立行政法人や社会福祉法人などに限定されており、寄附の時点で既に設立されているものでなければなりません。 |
特定の公益信託の信託財産とするために支出をした場合 | ⑴ 支出した金銭は相続や遺贈で取得したものであること(相続や遺贈で取得したとみなされる生命保険金や退職手当金も含まれます)。 ⑵ その金銭を相続税の申告書の提出期限までに支出すること。 ⑶ その受託者が信託会社(金融機関の信託業務の兼営等に関する法律により同法第1条第1項に規定する信託業務を営む同項に規定する金融機関を含みます。)であり、その公益信託が、教育や科学の振興などに貢献することが著しいと認められるなど一定のものであること。 |
認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)に寄附した場合 | ⑴ 寄附した財産には、相続や遺贈で取得したとみなされる生命保険金や退職手当金も含まれます。 ⑵ 取得した財産を相続税の申告書の提出期限までに寄附すること。 ⑶ その認定NPO法人が行う特定非営利活動促進法第2条第1項に規定する特定非営利活動に係る事業に関連する寄附をすること。 (注)認定NPO法人とは、特定非営利活動促進法第2条第2項に規定する特定非営利活動法人のうち、一定の基準を満たすものとして所轄庁(都道府県知事または指定都市の長)の認定を受けたものをいいます。 |
注意事項 | 詳 細 |
この特例の適用除外 | ⑴ 寄附を受けた日から2年を経過した日までに特定の公益法人、認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)または特定の公益信託に該当しなくなった場合や特定の公益法人または認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)がその財産を公益を目的とする事業の用または特定非営利活動に係る事業の用に使っていない場合 ⑵ 寄附または支出した人あるいは寄附または支出した人の親族などの相続税または贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合 例えば、財産を寄附した人または寄附した人の親族などが、寄附を受けた特定の公益法人などを利用して特別の利益を受けている場合は、これに該当することになります。 |
手続き | 相続税の申告書にこれらの特例の適用を受けようとする旨を記載し、かつ、その適用を受ける寄附または支出をした財産の明細書その他一定の書類を添付して申告する必要があります。 |
⑷ 直系尊属から結婚・子育て資金を一括贈与をした場合
令和5年3月31日までの間に、結婚・子育て資金管理契約を締結する日において18歳(注1)以上50歳未満の方(以下「受贈者」といいます。)が、結婚・子育て資金に充てるため、金融機関等とのその結婚・子育て資金管理契約に基づき、受贈者の直系尊属(父母や祖父母など。以下「贈与者」といいます。)から信託受益権を付与された場合、書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預入をした場合または書面による贈与により取得した金銭等で証券会社等で有価証券を購入した場合には、信託受益権または金銭等の価額のうち1,000万円までの金額に相当する部分の価額については、取扱金融機関の営業所等を経由して結婚・子育て資金非課税申告書を提出することにより贈与税が非課税となります(注2)。
(注1) 「18歳」とあるのは、令和4年3月31日以前の信託受益権または金銭等の取得については「20歳」となります。 |
(注2) 信託受益権または金銭等を取得した日の属する年の前年分の所得税に係る合計所得金額が1,000万円を超える場合には、この非課税制度の適用を受けることができません(平成31年4月1日以後に取得する信託受託権または金銭等に係る贈与税について適用されます。)。 |
(契約期間中に贈与者が死亡した場合)
契約期間中に贈与者が死亡した場合には、死亡日における非課税拠出額(注2)から結婚・子育て資金支出額(注3)(結婚に際して支払う金銭については、300万円を限度とします。)を控除した残額(以下「管理残額」(注4)といいます。)を、贈与者から相続等により取得したこととされます(注5)。
(注2) 「非課税拠出額」とは、結婚・子育て資金非課税申告書または追加結婚・子育て資金非課税申告書にこの制度の適用を受けるものとして記載された金額の合計額(1,000万円を限度とします。)をいいます。 |
(注3) 「結婚・子育て資金支出額」とは、取扱金融機関の営業所等において、結婚・子育て資金の支払の事実を証する書類(領収書等)により結婚・子育て資金の支払の事実が確認され、かつ、記録された金額の合計額をいいます。 |
(注4) 贈与者の死亡日における管理残額は、取扱金融機関の営業所等でご確認ください。 |
(注5) 令和3年4月1日以後にその贈与者から取得をした信託受益権または金銭等がある場合には、その取得分に対応する管理残額に相当する相続税額について、相続税額の2割加算の規定が適用されます。 |
⑸ 直系尊属から教育資金を一括贈与した場合
令和5年3月31日までの間に、教育資金管理契約を締結する日において30歳未満の方(以下「受贈者」といいます。)が、教育資金に充てるため、金融機関等とのその教育資金管理契約に基づき、受贈者の直系尊属(父母や祖父母など。以下「贈与者」といいます。)から信託受益権を取得した場合、書面による贈与により取得した金銭を銀行等に預入をした場合または書面による贈与により取得した金銭等で証券会社等で有価証券を購入した場合には、その信託受益権または金銭等の価額のうち1,500万円までの金額に相当する部分の価額については、取扱金融機関の営業所等を経由して教育資金非課税申告書を提出することにより、受贈者の贈与税が非課税となります(注1)。
(注1)信託受益権または金銭等を取得した日の属する年の前年分の受贈者の所得税に係る合計所得金額が1,000万円を超える場合には、この非課税制度の適用を受けることができません (平成31年4月1日以後に取得する信託受益権または金銭等に係る贈与税について適用されます。)。 |
(契約期間中に贈与者が死亡した場合)
3 相続で税金を少なくすることと同様、非常に大切なこと
上記1、2で相続税を少なくすることの説明をいたしましたが、それに伴うデメリットもあり慎重に行うことが重要です。 一般的に、節税と同時に相続を相続人間で円満に行うことがより重要かもしれません。 説明致しました節税方法はもろ刃の剣で、税金は少なくなりますが、それに伴い相続人間の関係を悪くすることも起こりえます。 例えば事業承継を含む相続では、会社の株式を誰に相続させるか(誰を後継者にするか)の選定、その他の資産を誰に相続させるかも重要で、扱い方次第で相続トラブルになってきます。 そこで事前に遺言書の作成または民事信託を行うことによって相続トラブルを防ぐことが出来かもしれませかもしれませんのでご紹介致します。
⑴ 遺言書の作成
相続争いの恐れがある場合は遺言書の作成で相続をスム-ズに行うことができる可能性が有ります。 また作成する時は公正証書遺言の作成をお勧め致します。
(遺言書の種類と内容)
種類 | 内容 | メリット | デメリット | 保管する人 |
自筆証書遺言 | 自分で遺言の全文・氏名・日付を自書し、押印する | ①費用がかからない ②秘密性の保持が可能 ③証人が不要 | ①条件を満たさず遺言書が無効になるリスクがある ②遺言書が本物かどうか証明できない ③紛失や盗難のリスクがある | 被相続人が保管 |
公正証書遺言 | 本人と証人2名で公証役場へ行き、本人が遺言内容を口述し、それを公証人が記述する | 法的に有効な遺言を確実に作成するすことができる | ①作成費用がかかる ②秘密性の保持が不可能 ③証人が必要 | 公証役場で保管 |
秘密証書遺言 | 遺言に署名・押印した後、封筒に入れ封印して、公証役場で証明してもらう | ①遺言書が本物であることを証明できる ②秘密性の保持が可能 | ①作成費用がかかる ②遺言書が無効になるリスクがある ③紛失や盗難のリスクがある ➃証人が必要 | 被相続人が保管 |
⑵ 信託の活用
概 要
信託とは財産の所有者が受託者に財産を預けて、管理・処分等を任せることです(不動産を信託した場合は不動産の登記簿の信託目録に委託者、受託者、受益者が記載されますので権利関係が明確になります)。 その内容は下記の通りです。
区 分 | 詳 細 |
信託の方法 | ➀信託契約(民事信託はほとんどこの方法で行われます) ➁遺言信託 ➂自己信託 |
委託者 | 財産を預ける人 |
受託者 | 財産を預かる人(法律的所有者) |
受益者 | 財産の実質的な所有者 |
信託財産(原則) | 一切の財産 (ただし法律により譲渡が禁止されている預金債権、及び債務は除かれます) |
信託財産(例外) | 賃貸不動産に係る債務を信託財産責任負担債務として信託行為に定め、かつ事前に金融機関と交渉することによって、当該債務を引き受けて返済することがが出来るようになります。 このときに信託財産に属する財産で返済できない場合、受託者固有の財産で返済する必要がありますので注意が必要です。 |
信託契約書の作成の仕方によっては課税が下記の通り、生じますのでご注意願います。
信託に対する課税
状 況 | 委託者、受託者、受益者の関係等 | 課 税 |
信託の効力発生時 | 委託者=受益者 | 課税なし |
委託者≠受益者 | 受益者に贈与税が課税される | |
受益権の移転時 | A受益者→B受益者 | B受益者に贈与税が課税される |
受益者権の譲渡 | 譲渡した人の譲渡所得 | |
受益権の放棄時 | 新たな受益権者に | 新たな受益権者に贈与税(相続税)が課税される |
信託終了時 | 信託財産を受益者に交付 | 課税なし |
信託財産を受益者以外に交付 | 当該受益者以外の者に贈与税が課税される | |
受益権の評価 | 信託財産に属する資産の評価-信託財産に属する負債の評価 |
信託活用の具体例
① 会社の経営権の支配を目的にする
受益者指定権の設定、受益者連続型信託の利用で信託終了まで委託者の意思でその所有する財産がどのように相続されるか信託契約により指定することが出来ます。 その結果下記のように会社の経営権をコントロ-ルできます。
イ 後継者の暴走及び浪費を防止
ロ 後継者の配偶者への移転の防止
② 認知症対策
委託者(親)が認知症になる前に下記のようにしますと贈与税が課税されずに、子が財産を管理できます。
ィ 親が親の財産を子に信託します(委託者=親、 受託者=子)
ロ 受益者を親に設定