医業 一人医師法人 

一人医師医療法人

個人で診療所を運営し、順調に収益が伸びてきた場合、所得税の累進課税により高額の所得税を負担することになります。 これにより、診療所の経営(資金繰り等)に悪影響が及び、さらには地域医療にも悪影響を及ぼす可能性が生じます。 一人医師医療法人制度はこれらを解決するために準備されましたので、導入する為の条件が合えば利用することをお勧めいたします。 まず、その制度の導入により、診療所の経営の健全化を目指し、家計と診療所の会計を分離することによって、診療所の経営内容を明確化し、現状認識、課題の発見及び将来の展望を拓くことが可能となってきます。 一般的には①年収が6,000万円ぐらい、②後継ぎがいる、③医療経営に積極的であること等の条件が、一人医師医療法人を設立する目安と言われています。 医療の世界では診療所の経営が親から子、子から孫へと引き継がれていく場合が多く、一人医師医療法人化することによって相続も順調に行うことが出来るもの思われます。

概 略

一人医師医療法人制度の概略をその項目ごとに整理しますと、下記のようになります。

項 目                        内  容
医療法人の種類⑴ 社団医療法人 複数の人が現金、不動産等一定の財産を拠出して設立された団体で都道府県知事の認可を受け、登記された医療法人(現在設立される多くの法人がこの法人です) ⑵ 財団医療法人 個人又は法人が現金、不動産等一定の財産を無償で寄付し一定の条件のもとで都道府県知事の認可を受け、登記された医療法人
目的家計と診療所経営を区分し、経営健全化、組織の強化等を目的とします。 また結果的に所得の分散により、副次的に節税効果が発生します。
適用税目⑴ 医療法人は法人税、消費税、地方税の課税対象になります。 ⑵ 役員又は家族従業員には給与所得が発生し、これに対して所得税が課税されます。
組織の概要⑴ 社員   社員総会の構成員で、拠出者でなくてもなることが出来、各一個の議決権を有します。 ⑵ 社員総会 最高の意思決定機関 ⑶ 理事会  業務執行機関 ⑷ 監事   医療法人の財産等及び業務の監査を行います。
出資者の要件自然人、法人ともに出資者になることができます。 ただし確定拠出型社団医療法人、財団医療法人の場合は出資金は有りません。
社員の資格要件自然人および営利法人以外の法人は社員になることができます。 社員は出資者でなくてもなることが出来、各一個の議決権を有します。
役員の人数理事3人以上と監事1人以上。 ただし知事の認可を受け、1人又は2人にすることが出来ます。
理事の資格要件理事になれる人は自然人で次の欠格事由に該当していない人で、社員と兼務することが出来ます。 ⑴ 成年被後見人又は被保佐人 ⑵ 医療法、医師法等医療法施行令5条の5の7に定める医事に関する法令の規定により罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して2年を経過しない者 ⑶ ⑵に該当する者を除くほか刑法等において禁錮以上の刑に処せられ、その執行が終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者
一人医師医療法人の代表者一人医師医療法人の代表者は理事長のみです。
理事長の資格要件医師、歯科医師である理事のうちから選出する(ただし都道府県知事の認可を受けた場合は医師、歯科医師でない理事のうちから選出することができる)。 *例外規定 理事長が死亡し、又は重度の傷病により理事長の職務を継続することが不可能となった場合にその子女が医科又は歯科大学在学中か、又は卒業後、臨床研修を終えるまでの間、医師、歯科医師でない配偶者が理事長に就任しようとするようなとき。
理事会の役割医療法人の業務執行の決定、理事の職務の執行の監督、理事長の選出及び解職を行います。
監事の役割医療法人の財産等及び業務の監査を行います。 医師である必要はありませんが理事又は従業員、理事の親族、医療法人に拠出している個人、顧問関係にある個人(税理士、公認会計士、弁護士等)は監事になることができません
設立に必要な資金一人医師医療法人を設立する場合には、2か月以上の運転資金を用意しなければなりません。
会計年度原則として、4月1日から翌年3月31日まで。 ただし定款によって別に定めることが出来ます。
提出及び届け出会計年度終了後、2か月以内に財産目録、貸借対照表及び収支計算書を作成し税務署等に確定申告する必要があります。 また決算書を3か月以内に知事に届け出る必要もあります。

設立手続き等

一人医師医療法人の設立手続きの概略をその項目ごとに整理しますと、下記のようになります。 また定款の作成と同時又は事前に受付期間の確認と都道府県に設立認可を受けるための打ち合わせが必要ですので、御留意願います。

項目内容
定款の作成定款の作成が義務付けられており、目的、名称、所在地、資産、会計、役員、社員、解散等を定める必要があります。 厚生労働省のモデル定款をご参照ください。
設立総会の開催総会において、次の事を審議し、決定する必要があります。 ① 一人医師医療法人設立の承認 ② 社員の確認 ③ 定款の承認 ➃ 出資の申し込み、設立時の財産目録の承認 ⑤ 2年分の事業計画及び収支予算の承認 ⑥ 設立当初の役員の選任 ⑦ 設立代表者の選任 ⑧ 医療設備、土地などを賃貸する場合の契約の承認 ⑨ その他必要な事項
設立認可承認申請書に添付が必要な書類① 医療法人の定款 ② 法人設立者(院長)の経歴書 ③ 役員就任承諾書 ➃ 法人後の2~3ヵ年の事業計画書 ⑤ 財産目録 ⑥ 予算書 ⑦ 医療法人設立を決定した際の設立総会議事録 ⑧ 社員および役員名簿 ⑨ その他必要な書類
設立登記医療法人の設立認可があった場合は、認可のあった日から2週間以内に主たる事務所を管轄する登記所に設立登記の申請をする必要があります。 ⑴申請する必要がある事項 ① 目的及び業務 ② 名称 ③ 事務所の所在地 ➃ 理事長の住所及び氏名 ⑤ 存立時期又は解散事由を定めたときは、その時期又は事由 ⑥ 資産の総額 ⑵登記申請書に添付する書類 ① 定款 ② 理事長の資格を有する書面 ③ 設立認可書 ➃ 資産の総額を称する書面
設立届け出設立登記後、速やかに知事に法人診療開設許可申請を行い、許可を受けた場合は10日以内に法人診療開設届及び個人診療所廃止届を提出する必要があります。
解散下記の事由が生じた場合は解散することになります。 ① 定款で定めた解散事由の発生 ② 目的である業務の成功の不能(知事の認可が必要) ③ 社員総会の決議(知事の認可が必要) ➃ 他の医療法人との合併 ⑤ 社員の死亡 ⑥ 破産 ⑦ 設立認可の取消

個人と法人の税金上の差異

一人医師医療法人化することによって、法人税、所得税、消費税、事業税及び住民税が下記のように変化し、税金の合計額が少なくなり、有利になる場合もありますのでご参照願います。

設   例

*所得税と住民税の所得控除額は多少異なりますが、便宜上同じ金額で計算し、法人市県民税の均等割は標準金額にて計算していますのでご了承下さい。

項目内容金額
個人の開業医所得(青色事業専従者給与控除前)2,000万円
所得控除合計200万円
青色事業専従者(配偶者)青色事業専従者給与収入600万円
所得控除合計100万円
法人化した場合の院長給与収入1,400万円
令和4年の税法に基づき計算

税額比較一覧表

 税目個人医療法人
本人青色事業専従者医療法人院長法人理事(家族理事)
法人税    -    -0円   -    -
消費税0円    -0円   -    -
課税所得12,000,000円3,360,000円 -10,050,000円3,360,000円
所得税2,424,000円244,500円 -1,780,500円244,500円
住民税1,200,000円336,000円72,000円1,005,000円336,000円
事業税5,000円0円   -    -
合計3,629,000円580,500円72,000円2,785,500円580,500円
総合計4,209,500円3,438,000円
差額税額771,500円   *法人化する方が有利

(個人注意1) 本人課税所得   1200万円[1400万円-200万円(所得控除)] 配偶者の課税所得 336万円[ 436万円(600万円の給与所得控除後の金額)-100万円(所得控除)] 個人の住民税率 10% 配偶者の青色事業専従者給与は500~600万円が多いと言われています(業務内容、他の従業員の給与との比較、他医院との比較して妥当な金額でなおかつ届け出の範囲内との制限があります)。 (医療法人注1) 院長課税所得 1005万円 [(1400万円の給与所得控除後の金額)-200万円(所得控除)] 理事課税所得  336万円 [ (600万円の給与所得控除後の金額)-100万円(所得控除)] 個人の住民税率 10% *院長及び他の家族役員の給与は法人が自由に決められますが、多すぎると過大役員報酬として一部否認されることがありますので適切に決める必要が有ります。

(岩手県西磐井郡平泉町 中尊寺)