医業収入に対する必要経費
1 売上原価
売上原価 = 期首棚卸 + 医薬品等の仕入 - 期末棚卸 |
棚卸資産とは
①薬品 |
➁診療材料 |
➂診療用具 |
➃給食材料 |
⑤その他消耗品 (貯蔵品に該当するもので毎年一定の購入の仕方の場合は棚卸を計算しないで購入額を必要経費に算入できる) |
2 租税公課
①事業用資産に対する固定資産税(生計を一にする親族の所有する事業用資産の固定資産税も含む) |
➁事業税 |
➂自動車税 |
➃事業用資産の登録免許税(登録により権利が発生する資産は取得価格算入) |
⑤事業用資産の不動産取得税 |
⑥事業所得の利子税 |
*所得税、住民税、相続税、贈与税、延滞税、加算金等は必要経費にならない |
3 人件費等
①従業員に対する給与、賞与及び退職金 |
➁青色事業専従者に対する給与及び賞与 |
➂従業員の社会保険料で事業主の負担分 |
➃従業員の慰安の費用 |
⑤従業員の慶弔費用 |
4 青色事業専従者給与
概 要
所得税の場合、生計を一にする配偶者及びその他の親族に対する経費の支払いは原則的に必要経費に算入出来ませんが、青色申告承認申請書を提出して、承認を受け、かつ、青色事業専従者給与の届出書を提出することで、給与を支払い、必要経費に算入することが出来ます。
配偶者の事業専従者給与 | 基本的には同規模の医院の専従者給与に相当する金額ですが、配偶者の勤務時間、資格(医師、看護師、薬剤師)などにより金額は相当幅広くなると思われます。 |
その他の事業専従者給与 | 基本的に配偶者と同じ |
(参考資料)
*一般的に資格がない事務職だけの医業に係る配偶者の専従者給与の額は年間500万円~600万円位が多いと言われていますが、納税者の所得金額、専従者の資格、勤務時間等により金額は増減しますので同規模の他病院の事務長等と比較して決定するべきだと思われます。 ちなみに国税庁「申告所得税標本調査結果」によれば令和2年度で専従者給与の額は単純平均で一人当たり平均222万円となっています。
青色事業専従者の要件
⑴生計を一にする親族でその年12月31日現在で年齢15歳以上であること ⑵専ら青色申告者の事業に従事していること 専ら事業に従事するとは、その事業に専ら従事する期間がその年を通じて6月を越えていることをいいます。ただし、次の様な場合には、事業に従事できる期間を通じて1/2を超えればよいことになっています。
① | 年の途中の開業等その事業が年中を通して行われなかった場合 |
② | 長期の病気などで専従者がその年中を通して事業に従事できない事情があった場合 |
注1 | 学生(夜間の学生を除く)、他でアルバイトをしている者、自分で事業をしている者等は専ら事業に従事する事が出来ませんので専従者にはなれません。 |
5 修繕費
①事業用資産の通常の維持管理に要する費用は修繕費に該当します ➁その支出に資本的支出が含まれいいる場合は区分し修繕部分のみが修繕費になります ➂資本的支出と修繕費の区分 判定基準
判定基準 | 資本的支出 | 修繕費 |
支出金額が10万円未満 | | ○ |
3年周期の支出 | | ○ |
明らかに資本的支出 | ○ | |
30万円未満 | | ○ |
取得価格の10%以下 | | ○ |
割合区分による方法 | 支出金額 - 修繕費 | ①支出金額の30% ➁取得金額の10% ①と➁の少ない金額 |
実質により判定 | 資本的支出の場合 | 資本的支出でない場合 |
6 旅費交通費
①従業員の通勤費
➁院長の通勤費(社会通念上妥当な額)
➂学会の参加費(事業の遂行の必要な費用)
➃海外への渡航費(事業の遂行に直接必要な費用)
7 接待交際費
①もっぱら事業の運営上必要な経費かどうかにより判断します 。 医師会の定期総会の会合費、大学病院の医局に人材を派遣してもらう為に支出する接待費等
➁冠婚葬祭費は原則交際費にはならない(従業員に対する分は福利厚生費として必要経費に該当する)
8 保険料
①病院の建物(病院部分のみ)、事業用資産に対する火災保険
➁従業員に対する生命保険で定期保険の掛け金
➂従業員に対する傷害保険の掛け金
➃従業員に対する労災保険の保険料
⑤従業員に対する社会保険の事業主負担分 *所得補償保険は必要経費になりません
9 減価償却費
概 要
事業などの業務のために用いられる建物等の資産は、時の経過等によってその価値が減っていきます。このような資産を減価償却資産(土地、美術品等は時の経過等によってその価値が減っていきませんので除かれます)といいます。 減価償却資産の取得費は、取得した時に全額経費になるのではなく、その資産の使用可能期間の全期間にわたり、その資産の種類、用途に応じた耐用年数に基づき計算した償却費を経費又は損金に算入していくべきものです。
原則
事業用資産(取得価額が10万円以上)の種類、用途に応じた耐用年数に基づき計算した償却費が必要経費又は損金になります。
各種特例計算
A 青色申告者に対する30万円未満の少額特例(所定の手続きにより全額必要経費に算入) |
B 一括償却資産制度の選択 (20万円未満の資産を取得した場合、その年に取得した10万円以上20万円未満の全ての資産の合計額を3年間で償却し必要経費に算入します。) |
C 年の途中に取得した資産の償却費は月数按分 |
D 医療用機器の特別償却費は普通償却費に加算 |
E 個人は償却費は強制償却(該当年の償却費はその年の必要経費) |
F 生計を一にする親族の所有する事業用資産の償却費は本人の必要経費になります(ただし対価を支払っても必要経費に算入することが出来ません) |
G 遊休資産は事業の用に供するため維持補修がされていて、いつでも稼働できる状態にある場合は減価償却をすることが出来ます |
リ-ス契約の資産の特殊償却方法
リ-ス料は契約の種類により下記の様に区分されています
リ-ス契約の種類 | 詳 細 | 処理方法 |
所有権移転ファイナンスリ-ス | リ-ス期間中にキャンセルが出来なくて、資産に関して発生する費用は自己負担で期間終了時に所有権が移転する契約 | リース料の総額を取得価格額に算入し法定耐用年数の期間で償却する |
所有権移転外ファイナンスリ-ス | リ-ス期間中にキャンセルが出来なく、資産に関して発生する費用は自己負担で期間終了時に所有権が移転しない契約 | リース料の総額を取得価格額に算入しリース期間定額法で償却する(ただし中小企業の場合は一定の条件のもと例外的に支払時に必要経費に算入することが出来る) |
オペレ-ティングリ-ス | 途中でキャンセルが出来る契約 | リ-ス料を支払時に必要経費に算入する |
減価償却方法
主なものは下記のとうりです
定額法 | 償却限度額 = 取得価額 × 定額法の償却率 |
定率法 | 原則 | 償却限度額 = 未償却残高 × 定率法の償却率 |
償却額が償却保証額を下回った年以降の事業年度 | 償却限度額 = 改定取得価額 × 改定償却率 |
償却保証額 取得価額に、耐用年数に応じた保証率を乗じた金額
改定取得価額 償却額が初めて償却保証額に満たなくなる年の期首未償却残高
改定償却率 償却額が償却保証額に満たなくなる年以降に使用する当該資産の耐用年数に応じた償却率
中古資産の耐用年数
1 原則
見積もり可能 | 見積もり耐用年数 |
見積もり不可能 | 簡便法等 |
簡便法とは
①耐用年数の一部を経過している場合 | (法定耐用年数 – 経過年数) + 経過年数 × 20% *端数処理 1年未満の端数は切り捨て 2年未満の場合は2年 |
➁耐用年部の全部を経過している場合 | 法定耐用年数 × 20% *端数処理 1年未満の端数は切り捨て 2年未満の場合は2年 |
2 例外
法定耐用年数
10 繰延資産
概 略
①繰延資産とは個人が支出する費用のうちその効果が支出の日以後1年以上に及ぶ次に掲げるもので10万円以上のもの(前払費用は除く)
種類 | 内容 | 償却期間 |
A 開業費 | 事業を開始するまでの期間に支出する広告宣伝費、接待費、旅費、土地建物の賃借料、電気、水道、ガス等の費用 | 60か月で償却 (その支出金額の範囲内の金額をその年の必要桁費に算入する旨を確定申告書に記載した場合は記載した金額が償却費の額とすることが出来ます) |
B 開発費 | 新たな技術、新たな経営組織の採用、資源の開発、市場の開拓のために特別に支出する費用 | 60か月で償却 (その支出金額の範囲内の金額をその年の必要桁費に算入する旨を確定申告書に記載した場合は記載した金額が償却費の額とすることが出来ます) |
C その他 | 下記表を御参照ください | 下記表を御参照ください |
C その他の詳細
種類 | 細目 | 償却期間 |
公共的施設の設置又は改良のために支出する費用 | (1) その施設又は工作物がその負担した者に専ら使用されるものである場合 | その施設又は工作物の耐用年数の7/10に相当する年数 |
(2) (1)以外の施設又は工作物の設置又は改良の場合 | その施設又は工作物の耐用年数の4/10に相当する年数 |
共同的施設の設置又は改良のために支出する費用 | (1) その施設がその負担者又は構成員の共同の用に供されるものである場合又は協会等の本来の用に供されるものである場合 | イ 施設の建設又は改良に充てられる部分の負担金については、その施設の耐用年数の7/10に相当する年数 ロ 土地の取得に充てられる部分の負担金については、45年 |
(2) 商店街等における共同のアーケード、日よけ、アーチ、すずらん灯等負担者の共同の用に供されるとともに併せて一般公衆の用にも供されるものである場合 | 5年(その施設について定められている耐用年数が5年より短い場合には、その耐用年数) |
建物を賃借するために支出する権利金等 | (1) 建物の新築に際しその所有者に対して支払った権利金等で当該権利金等の額が当該建物の賃借部分の建設費の大部分に相当し、かつ、実際上にその建物の存続期間中賃借できる状況にあると認められるものである場合 | その建物の耐用年数の7/10に相当する年数 |
(2) 建物の賃借に際して支払った(1)以外の権利金等で、契約、慣習等によってその明渡しに際して借家権として転売できることになってい | その建物の賃借後の見積残存耐用年数の7/10に相当する年数 |
(3) (1)及び(2)以外の権利金等の場合 | 5年(契約による賃借期間が5年未満である場合において、契約の更新に際して再び権利金等の支払を要することが明らかであるときは、その賃借期間)相当する年数 |
電子計算機その他の機器の賃借に伴って支出する費用 | | その機器の耐用年数の7/10に相当する年数(その年数が契約による賃借期間を超えるときは、その賃借期間) |
ノウハウの頭金等 | | 5年(設定契約の有効期間が5年未満である場合において、契約の更新に際して再び一時金又は頭金の支払を要することが明らかであるときは、その有効期間の年数) |
スキー場のゲレンデ整備費用 | | 12年 |
出版権の設定の対価 | | 設定契約に定める存続期間(設定契約に存続期間の定めがない場合には、3年) |
同業者団体等の加入金 | | 5年 |
職業運動選手等の契約金等 | | 契約期間(契約期間の定めがない場合には、3年) |
11 その他の費用
項 目 | 判 定 |
① 貸倒損失 | 患者さんに対する治療費で患者さんが行方不明、資産状況から回収不能が明らかな場合はその債権を貸倒処理することが出来ます |
➁ 損害賠償金 | 医療事故に対する損害賠償金は故意又は重大な過失がなければ必要経費になります |
➂ 従業員の行為によって支払う侵害賠償金 | 従業員の行為に対して事業主に故意又は重大な過失がなければ必要経費になります |
➃ 従業員の交通反則金 | 事業に関連して従業員の交通反則金を支払った場合も必要経費になりません(所得税法では罰金、科料、過料は必要経費になりません)。 事業に関係しない場合は従業員対する給与として必要経費になります。 |
⑤ 研究費 | 事業に直接必要な研究、研修費用は必要経費になります(図書費、学会等の参加費等) |
⑥ 貸倒引当金 | 必要経費算入限度額(所得税) = 年末の貸金等の額(社会保険診療報酬の未収分も含む) × 55 ÷ 1000 |
(栃木県日光市 中禅寺湖)